3 ― NiXXle shaped stain Part2 赤ちゃんは敏感で

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綴にチカくんのペンネームなんて教えるんじゃなかった。 大合唱する蝉たちに鼓膜をいたぶられながら、綴に手を引かれて店へ向かう。 できるだけ日陰を歩いてみるものの、日焼け止めを塗りたくった肌の表面からは汗が浮き出てくる。 鉄板のうえでフランベされるお肉って、こんな気分なのかな。 「綴がバッグ持ってるなんてめずらしいね。なにが入ってるの?」 「小説持ってきた。サインもらおうと思って」 「えっ、サイン?」 「頼んだら駄目かな」 「大丈夫だと思うけど……」 数日前。チカくんのペンネームをふいに思い出して告げると、綴は「一生のお願いだから、会わせて」と興奮気味に頼んできた。 綴の本棚にずらりと並んだ小説の背表紙には、チカくんのペンネーム。 小説の帯まできちんと保管されていた。 ティッシュ一ダース必須の泣けるミステリー作家。 それがチカくんの肩書きのようだ。 ティッシュが必要なのは作家本人じゃない? と帯を眺めながら、チカくんの涙を思い出した。 大粒で、どこまでも透明で、不純物のいっさい入っていない生まれたての(つゆ)
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