42人が本棚に入れています
本棚に追加
***
べたつく肌に、Tシャツがじっとりとへばりつく。
夕方だというのに汗が止まらない。
ぱたぱたとTシャツを扇いでみても、もちろん乾くわけがない。
髪を結わけば少しは涼しいかもしれないけれど、顔の輪郭を隠したいから結わきたくない。
軽く苛立ちながら、手垢を避けてファミレスのガラス扉を押した。
あたしを見つけたチカくんの真っ白な手がひょいと上がり、左右に振られる。
そこまでしなくたってわかるよ。
まったく呆れてしまう。
チカくんはいちいち動作が大きい。
手足が長いから尚更そう見えるのかもしれない。
目に刺さりそうなくらい長い前髪から覗く瞳が、あたしをじっと見つめる。
「来てくれて、ありがとう。いち花」
重低音の声はゆっくりで、空きっ腹によく響く。
あたしはこめかみから滴りかけた汗をハンカチで拭い、メニューをめくった。
拭かれたばかりなのか、ページとページがぴたぴたくっつく。
ベルを鳴らして店員に注文すると、すぐにお冷やを出された。
額に当てたいのをこらえて喉に流し込めば、グラスはすぐに空になった。
最初のコメントを投稿しよう!