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しかし彼女はどうして図書室に姿を現し、本を借りたのだろうか。僕はその理由を推測する。
真澄さんはきっと成宮の告白を受け入れたいはずだ。けれど恋の仕方がわからなくて戸惑っている。だから恋愛小説を読んで勉強し、心構えをしているのだと。
そして結末となる5巻を読みそびれていたから、図書室で借りたのではないかと。
想像力が刺激され、ふたりが仲睦まじく下校する姿が脳裏に描かれてゆく。真澄さんの綺麗な横顔の隣には、成宮の顔があった。僕はそれをただ遠くで眺めているだけだ。
なぜか内臓が捻られるような不快な気分になって、いてもたってもいられなくなる。思い出のアルバムにしまいこまれた真澄さんの横顔がむしり取られていくような気がした。
そして翌日――つまり火曜日の放課後。
真澄さんは夕方、ふたたび図書室を訪れた。昨日の本を差し出す。
「借りた本、返すね」
「はい、たしかに受け取りました」
すぐに返却するということは、もう読み終わったのだろうか。恋愛の準備は整ったということなのだろうか。
本の表紙を見ながら思考を巡らしていると、真澄さんは昨日と同じように奥へと足を進め、ふたたび本棚を探り始めた。
手を伸ばしたのは同じ本棚の、同じ高さの場所だった。不思議に思ったので、本の整理をするふりをして彼女の様子をうかがう。
すると彼女が手にしたのは、昨日と同じタイトルの本、それも「4巻」だった。ためらうことなく後ろの方を開いて読み、納得したようにその本を借りてゆく。なぜ、と疑問が浮かんだ。
さらにその翌日、水曜日に彼女は同じように本を返し、新たな本を一冊借りた。今度は3巻だった。
淡々と貸し借りを行いながら、僕はようやっと確信を得た。彼女はこのシリーズを「逆読み」しているということに。
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