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けれど後ろから読んで、本当に楽しめるのだろうか? 彼女の意図が気になってしかたなくなる。理由を尋ねてみたいと思う反面、詮索しているみたいで気が引けた。僕の心の天秤はゆらゆらと揺れていた。
木曜日、真澄さんは2巻を借りていった。そして金曜日は1巻。早い読書ペースは、告白の返事までに間に合わせようとしているように思えた。最後の貸し出しの時、僕は我慢できなくなり、心の天秤を押し倒して彼女に尋ねた。
「小説の逆読みって、面白いの?」
「うん、正直あんまり面白くない」
そりゃそうだよなと、あたりまえのように思った。
「誰も借りている人はいないから、どれから借りるかは個人の自由だけどね」
「じゃあ、どんな相手と付き合うかも個人の自由なのかな。滝沢君はどう思う?」
真澄さんの突然の問いかけに僕はびっくりした。彼女が成宮から告白を受けたことはクラスの皆が知るところだ。けれどどうして僕にそんなことを尋ねるのか意図がわからない。適切な答えを持ち合わせていない僕は、無難な返事しかできなかった。
「噂で聞いたよ。成宮に告白されたんだってね。返事は君の意思次第じゃない?」
「……うん、そうなんだけどね」
真澄さんはためらいがちに肯定する。そこには紛れもなく彼女の迷いがあった。
「答えを保留にしたのって、はい、って言えない理由があるのかな」
「うん。こんな恋のはじまりが正解なのかわからなかったから」
「正解か、わからない、って?」
「だから小説の逆読みをしてみたんだ」
彼女は借りたばかりの1巻を目の前に掲げて見せた。
「滝沢君だから話すよ」
僕が無口なせいだからだろうか。真澄さんはそんな前置きを付して、迷いの理由を語ってくれた。
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