逆読み真澄さんのこだわり恋愛観

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★  土曜日の授業は午前中で終了した。皆が早々に下校する中、僕は図書室へと向かった。彼女が告白の返事をする舞台を準備するためだ。真澄さんがそう希望したのだから。    真澄さんは律儀にも借りた本を持ってきた。告白の返事があるだろうから後ででいいよと言ったのに、もう読み終わったからと、最後に借りた1巻を僕に差し出した。  僕は彼女と向き合って本を受け取る。  その時、図書室の扉が開いて長身の男が入ってきた。成宮圭吾だ。こちらを見て怪訝そうな顔をした。僕はとっさに身を引いて、「本の返却、承りました」ときわめて事務的な返事をする。成宮は口角を持ち上げた。 「あのさ、図書委員の君、ここから立ち去ってもらえないか。どうせ誰も来ない部屋だろ?」  成宮は僕を邪魔者のように扱った。確かに邪魔だろうけど、必要以上に威圧的な態度だと感じた。自分が全校生徒に認知されているという自覚があるから、不遜な態度を取るのだろう。  僕はそそくさと部屋を後にし、みずから扉を閉じた。けれど扉のレールには消しゴムを挟んでおいた。  成宮はそのことに気づかなかったようだ。立ち去るふりをして扉の隙間から中を覗き、聞き耳を立てる。  成宮は真澄さんに詰め寄るように迫っていた。 「さっそくだけどこの前の答え、聞かせてくれないかな。ちなみに誤解のないように言っておくけど、俺、今はフリーだから安心して」 「今まで付き合っていた人、いたんですか?」  彼女が丁寧語で話していること自体、関係性が平等でないことを物語っていた。 「人気があれば、そういうことだって当然あるさ。――まさか俺が勇気を出して告白したっていうのに、過去を気にして無下にしちゃうわけ?」 「いえ、そういうわけじゃ……」 「それとも君、誰かと付き合っているんだっけ?」 「別にそんな人、いませんけど……」 「ならいいじゃん。まぁ、性格が合わなかったら別れればいいわけだしさ。一度も交際経験のない青春時代なんて、もったいないと思わない?」  成宮は真澄さんを壁に追い詰め、答えを求めている。首を縦に振らない限り、食いついて離れなさそうだ。  これは告白なんかじゃない。立場を悪用した脅迫とさえ思える。  その様子を見た僕は、成宮の腹の底が、皆のイメージとはまるで違うものなのだと確信を得た。
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