無の楽園

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 最後のメッセージが消えると、見渡す限りの真っ白な世界だけがと私だけ残った。とても不思議な感覚に陥った。ここは駅ビルの一角にある小さなテナントのはずなのに、この部屋がやけに広く感じた。いやむしろ壁の継ぎ目も見当たらず、入ってきたドアも見当たらない。漠然とした白い空間が広がっているだけだった。  この状況にも慣れて、だいぶ気持ちも落ち着いてきた。つまりこのサービスは『何もない空間で過ごすことでストレス解消しましょう』というコンセプトで提供されるサービスなのだろう。  私はゆっくりとその場に座った。  少し弾力のある床の座り心地は良く、触り心地も良かった。そのまま寝そべってみる。寝心地もなかなかいい。仰向けになったままそっと目を瞑った。そして耳を澄ます。  一切、音がしない。本当に全く何も聞こえないのだ。  外部の音は勿論のこと、内部からの音すらない。静かな部屋と言っても限界はあるはずだが、ここはまさに無音だった。そのコンセプトの徹底ぶりに企業努力を感じ、素直に感動した。  今回の利用時間は30分だ。利用時間が過ぎると音が鳴るという仕組みのようだ。それなら時計を気にする必要もない。私はせっかくなので無音の世界を堪能しようと思った。またここに来るとは限らないのだから。  それにしても本当に静かだ。
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