無の楽園

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 無の楽園へようこそ  真っ白な空間に浮かび上がるその文字を見つめた。  『無の楽園』というのは、このリラクゼーションサービスの名前だ。  リラクゼーションといったものに全く興味のなかった私が、なぜこの場所にいるかというと、部下の白瀬君との会話がキッカケだった。  「最近、お疲れ気味じゃないですか? 朝、駅前でこんなチラシもらったので、よかったら行ってみたらどうですか?」  彼女から受け取ったのは割引付きのチラシだった。駅ナカにある店らしい。最初は行くつもりはなかったけれど、久しぶりに仕事が早く終わったのと、白瀬君にも指摘された通り、ここ最近疲れがかなり溜まっていた。それもあって、ものは試しだと思い、ここに立ち寄ってみたというわけだ。  ただ…… 「なんだ、ここは……」  今、私の目の前には、入室前に読んだ案内文そのままの、何もない真っ白な空間が広がっているだけだった。不安になって辺りを見回してみるも、何もない。それがさらに不安を煽ってくる。そんな私をよそに、次のメッセージが浮かび上がってきた。  ここは何もない世界  ここにあるのは、あなたと無の世界  先程と同じようなテンポで文字は消え、次の言葉が浮かび上がってくる。とにかくこのメッセージを見ることだけに集中しようと、私はそのイントロダクションに視点を定めた。  私達は常に音に囲まれ、常にそのストレスに晒されています。  無の楽園ではお客様に音のない世界を提供いたします。  あなたはこの素晴らしい体験をした後、心も体も軽くなっていくことでしょう。  時間の許す限り、ご堪能ください。
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