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「繰り返す。これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない。この試験での失敗は死を意味する」
教官の声が壊れたラジオのように繰り返していた。
しかしそんなことは言われるまでもなくわかっていた。目の前で爆散する宇宙服は一緒に施設で育った子供達の物なのだから。
「諸君らの宇宙服は10分後に爆破する。死にたくなければ地球に降下せよ。宇宙服の外の酸素濃度が一定値を示した際に爆弾は止まるようにセットされている」
教官の言葉を証明するかのようにモニターにはタイマーが映し出され時間はもう5分をきっていた。
「タイマーが止まってからの戦闘は禁ずる。もし違反した場合はその場で宇宙服を爆破させる。ただし成層圏での戦闘は大いに推奨する。それこそが今回の試験の本来の目的だからだ。1体落とすごとに爆破するまでの時間は5分伸びる。生還の可能性が高まることだろう」
最初に教官が試験の内容を説明した時、早く地球に降りようと何人かの子供達が我先にと地球へと向かった。けれど全員教官によって落とされてしまった。大気圏突入時には宇宙服の動きが制限される。ただでさえ教官とは宇宙服を動かす技量に差があるのに、これでは地球に降りるのは不可能だ。次に起きたのは子供達の中での殺し合いだった。どうやら宇宙服に時限爆弾がついているのは教官も同じようだった。けれど教官は子供達を殺しても制限時間が延びるという措置は施されていないらしい。ならば教官が地球に降りるまでやり過ごしてから地球に降りればいい。そのためには他の子供達を殺して時間を延長しなくてはならない。
「まるで殺し合いを指せるようなルールだ」
僕がどこか人ごとのように呟いた。人を殺すのも殺されるのも嫌だ。ならどうすればいいか。それは…
ドン!
また空想の中に逃れようとした時、僕の宇宙服は大きく揺れた。
・・・
初めて宇宙を見たとき何故か違和感があった。実際にバイザー越しに見る宇宙はただひたすら深い闇に星が輝いているだけで味気がなかったからだ。僕が想像していた宇宙は暗闇の中にも濃紺があってとても綺麗だった。
だから僕は眼を閉じて宇宙を観る。目を閉じて観る宇宙は僕の思い通りの濃淡のある綺麗な闇が広がっている。静寂の中で僕はまるで母親のお腹の中にいるような錯覚を覚えた。ありえないことだ。僕が作られたのはガラス瓶の中で母体にいたことなんて一回もなかったのに。
「…リ、ユーリ? 聞こえてる? 」
エルの声で現実に引き戻される。
「また変な妄想にふけってたんでしょう? 」
モニターには自分とそっくりの少女が映っていた。怒ったように僕をのぞき込んでいる。もうすぐ試験だと教えに来てくれたのだろう。
「ごめん」
僕はとりあえず謝った。妄想じゃなく空想に耽っていたと言ってほしかったけれど些細なことだ。エルは怒っている。まずはその怒りを鎮めることが先決だった。
「なんで謝るのよ! 」
ところが、そんな僕の態度が彼女をよりいっそう怒らせたみたいだ。エルの眉間がさらに険しくなった。
「ご、ごめん」
「またぁ! 」
エルと僕は遺伝子的に双子にあたる。同じ施設で生まれた。大量に複製された精子と卵子をランダムに掛け合わして作られたのが僕達だ。ランダムに掛け合わされているので似ている人間ができる可能性は低いはずなのだけれど、それだけ生殖可能な精子と卵子が少なくなっているということなのだろう。宇宙では常に放射線にさらされる。勿論それらを遮断する術はあるが限界があった。その過酷な環境ゆえに長く生活していれば次第に繁殖能力は失われていく。宇宙に逃れた人類はもう自然に生殖行為をしたのでは子供を創ることはできない体になっていた。
「いい加減変な妄想やめなさいよ。何もないところで顔がニヤッとなって気持ち悪いんですけど? 」
「ニヤッとなんかしてないよ…」
エルの気が収まるなら甘んじて汚名もうけようというものだけれど、さすがに何もないところでニヤッとするという汚名は嫌だった。思わず反論してしまう。
「なってたわよ。ニヤッて。何考えてたんだか嫌らしい。私たちは双子なんだから、そんなんじゃ私まで変な風に思われるじゃない」
「考えてないって」
僕とエルの遺伝子適合率はかなり高くクローンに近いレベルと判定されていた。僕達は誕生後の遺伝子配列で関係性を決められる。遠ければ他人だし近ければ兄弟。もっと近ければ双子。もっとも仮に兄弟と判定されても施設で一律に育てられるので特に意識することはない。ただ双子ともなれば何か感じるものかあるらしく一緒に行動することが多かった。言葉がなくても分かり合える特別な関係。僕とエルもその例にもれず一緒に行動することが多かった。
「今回はシュミレーションじゃないんだからね? 本当に大気圏で演習するんだから。ボーっとしてたら死んじゃうんだからね! 」
僕をひとしきり弄って満足したらしい。エルは最後に心配するように言った。
エルは自分がお姉さんだと思っていて僕にお節介を焼いてくる。でも僕はそれが億劫だった。だから気を紛らわすためにいつも空想の世界に逃げ込む。
むかしむかし、地球に巨大な隕石が落ちた。それはかつて何億年も前に恐竜達を滅ぼしたように氷河期を引き起こし地球は人間が住めない星になった。勿論、人間達は恐竜とは違って科学力があったから幾ばくかの人間は宇宙へと逃げ延びることができた。けれど人間が地球に進出するのは少し早すぎたみたいだ。人間達は完全には宇宙に順応することは出来ず、子供はできなくなり職業の自由なんかもなくなった。僕達は施設で作られ将来の役割も最初から定められて育てられまるで施設の部品のように扱われていた。
もし隕石がぶつからなければ僕たちはどんな生活をしていたのだろう? かつて人間達は血縁者が固まって生活していたという。それを家族と呼んだのだそうだ。愛し合った者が子供を作り子供は学校というものに通っていたらしい。そこでいろいろな人生を選ぶための準備をした。家族と言うのには少し興味があった。僕の両親はどういう人だったのだろう? 現在施設では子供を創る精子や卵子は地球から持ってきた優秀な人間の優秀な遺伝子のものを複製して使っている。地球に隕石が落ちたのは500年くらい前だから500年前の人間が僕達の両親と言うことになる。もうどういう人間だったのかデータは残っていない。ただ分かっているのは試験で優秀な成績を残せた人間の遺伝子と言うことだけだった。まだみぬ自分の両親を想像するのはそれなりに楽しかった。
「…ーリくん、ユーリ君、聞こえているかね? 」
「あ…、はい」
いつの間にか僕を呼ぶ声はエルではなくなっていた。野太い男の声だった。モニターに壮年の男の顔が映っていた。教官だ。施設から僕たちを見守ってくれた両親のような…いや、そこまで親しくはない。先生のような存在だ。
見た目こそ老けて見える教官だったけれど年齢は僕達とそこまで変わらない。僕とエルは15歳。教官は30代か下手したら20代かもしれない。過酷なで環境は老けるのも早くなる。それに何度も複製した遺伝子で生まれてくる僕達は長く生きることもできない。複製するたびに遺伝子は劣化していくからだ。環境を抜きにしても老いるのは早かった。
「君の空間把握能力は宇宙服を操縦するにあたって有益だということは分かっているが時と場所を選んではどうかね」
教官はニコニコと穏やかな笑みをたたえつつ嫌味を言ってくる。そういうところがエルはいけ好かないと言っていたが僕はむしろ好意的だった。怒っていない表情をしてくれれば怒っていないように接することができる。例え嫌味を言っていても気のせいだということにすることができる。それに教官はエルが言うほど悪い人ではない、と思う。
「ありがとうございます教官。頑張ります」
「…10分後に試験だ。気を引き締めなさい」
教官は嫌味を流されたことに眉をひそめたけれど、いつものことだと諦めたようだった。そういうと通信を切った。
「だから言ったでしょ」
教官の通信が消えるとすかさずエルの通信が割り込んできた。
声を潜めてはいるが通信は他のクルーにも聞かれているのでそんなことをしても無意味だ。ただの気持ちの問題だった。
「エル君。君もだよ」
案の定、教官が再び配線に割り込んできてエルの顔が引きつっていた。
・・・
「何ボーっと突っ立ってんの! 」
ドン! という衝撃と共に聞こえてきたのはエルの声だった。
「早く地球に降りないと間に合わなくなるでしょ? 」
「僕は別にいいよ」
人を殺してまで生き延びようとは思わないし殺されるのも嫌だ。殺そうとする人の感情を見るのは嫌だ。教官みたいに表向きだけでも紳士的に振舞ってくれたら傷付かなくて済むけど醜い人の感情を見るのは嫌だ。
「馬鹿! 」
でもエルは泣いているみたいだ。悲しい気持ちが伝わってくる。悲しい気持ちになるのはよくない。
「今なら宇宙服から降りたら助かるかもしれないよ」
慰めようと心にも思ってないことを言って慰めてみる。コクピットはロックされているのは確認済みだった。僕達は大気圏突入時の戦闘データをとるために消費される。それは確定事項のようだった。
宇宙服といっても本当の宇宙服ではない。どちらかというとロボットに近かった。というかロボットだった。昔のアニメでロボットのことを動く宇宙服と呼んでいた名残でロボットのことを宇宙服と呼んでいる…わけではない。それも少しあるみたいだけど。
人類が宇宙に逃れた時、各国間でいくつかの条約が結ばれた。その中に非戦闘条約があり戦闘兵器の所持の禁止があった。命からがら宇宙に逃げ延びてるのに、そこで殺し合いが起こったら本当に人類が滅んでしまう。それを止めるための処置だった。けれど約束を守らない国と言うものはあるもので、宇宙に逃げ延びた後の覇権国家を狙って大量の武器を所持して宇宙に逃れた国もあった。そういう国に対処しようと武器を開発しようとしたところ、武器を開発する余裕のない国から不満が出た。その武器はうちを脅すために作っているんじゃないかと。そういう問題を回避する方便として大型の宇宙服は開発されたのだ。「これは大きな宇宙服。戦闘兵器じゃないですよ。こんなロボットみたいなものでまともに戦えるわけないじゃないですか? 」みたいな感じで。実際にロボットの形は非効率的なのだけれど、戦闘できないかと言うとそういうわけではなかった。地球でロボットを作ったら重量的に二足歩行は困難だ。けれど宇宙には重力がない。おまけみたいに手足を付けたところで戦闘には特に支障がない。
「嘘つき。教官は逃げようとしても爆発するって言ってた。逃げれるわけない」
そんなこと言ってただろうか? そこは空想の世界に行っていて聞いていなかった。
もともと試験は宇宙服の単独大気圏突入試験を行うというものだった。いくつかの宇宙服が別々のアプローチで大気圏に突入する機能を有しており、どのタイプを採用するかと言うコンペでもあった。でもその試験においてより実践的な戦闘におけるデータが欲しいということになって殺し合いをさせられることになったらしい。僕はなるほどと納得してそれ以上は聞いていなかった。
僕達は長く生きることはできない。平均寿命は30ほどだ。その中でも僕達のグループは特に近親者が多かった。みんな遺伝子的には兄弟か従弟かというくらいに近い。意図せず近親者の集まった僕らの寿命はもっと短いに違いなかった。出来損ないを有効利用するにはもってこいということなのだろう。
「!? 」
グイっと、急にエルに引き寄せられた。抱き着かれたのかと思ったけれどそうではなかった。今まで僕がいた場所に熱量の束が降りそそいだからだ。
「戦闘に参加しないのは歓迎できないよ。ユーリ君」
熱量が来た先を見れば教官の宇宙服が銃を構えていることろだった。
銃と言っても宇宙服は戦闘兵器ではないので名目上は武器ではないことになっている。正式名称はウェルディングガン。直訳すると溶接する銃。その名の通り溶接の道具をたまたま銃として使用して戦う体だ。こんな言葉遊びに一体どんな意味があるのか分からないが他の国の人と仲良くするには大事なことらしい。
「こいつ…」
エルも教官に銃を向けようとするのを僕は軽く制した。
「どうして止めるの!? 」
「教官もこの試験で死ぬからだよ」
僕は諭すように答えた。教官も自分の役割を果たしているだけだ。それを責めるのは酷だろう。
「ほう…」
教官は興味深げにいった。
「どうしてそう思うのかね? 」
「だって教官は僕達を殺しても制限時間が伸びないんでしょう? でも僕達が全員地球に降りるのを見届けなくちゃいけない。その後で地球に降りたんじゃ制限時間を超えてしまう。でも最初に大気圏に突入すれば後ろから狙われやすくなります。もうすでに仲間を殺して制限時間が伸びた者は躊躇なく教官も狙うでしょう」
「私にも制限時間があるのは嘘だとは思わないのかね? 」
「そもそも僕達が殺しあいになってる原因は制限時間を延ばすため。教官が宇宙に留まっている時間を超えて宇宙に留まるためです。そこを偽っては真面な試験が、宇宙服のデータをとることが出来なくなってしまいます」
「データをとることが目的だという可能性は? 」
「どうしてですか? 僕たちは長くは生きられない。なら元気なうちにデータを取ろうとするのは当然じゃないですか? 嘘をつく必要はないでしょう」
「自分の命なのにやけに客観的なことを言うのだね。自分が死ぬという現実から目をそらしているだけではないのか? 」
それはそうかもしれない。でもだからこそ気づくこともある。
「教官だってもう寿命が近づいているはずです。それなのに教官だけ特別扱いするはずがありません。教官だって僕達のように消費されるだけの存在のはずです。だって教官は今回の試験で地球に無事に降りれた僕たちの未来の姿だから。無事に試験を終えて今度は教える立場になって教官になって、そして僕らはまた消費される。無事に宇宙に降りれたとしても教官みたいに使い捨てにされるんじゃ生き延びる意味を見出せません」
「はは…。私すらも客観的に見て判断するか。面白いね」
教官は苦笑いしたが特に否定はしなかった。
ということはあっているのだろうか? ボーっとしているとどうでもいいことをとりとめもなく考える。現実の宇宙が気に入らないから空想の宇宙を考えてみたり。それがあっているとは限らないのはよくわかっていたけれど。
「私は不思議に思っていたのだ。遺伝子が同じものは才能も類似する。宇宙服の操縦も同じ傾向にある。それなのにエル君は優秀なのに君は特に優秀とは言えなかった。そんなことを考えていたからなのだね」
別のことを考えてる時点で才能が同じと言うのは違うんのではないかと思う。非効率的なことを考えて効率的なことをしている人と同じ結果を出してしまえばそれはその人間より優秀と言うことになってしまう。
「ユーリ君とはエル君は同じ遺伝子でも違う人間だね。ユーリ君は殺し合いをするなら死を選ぶというのにエル君は生き残るために兄弟を殺したのだから」
「? 」
僕は教官が何を言い出したのか分からなかった。なんで今の話の流れでそんな話が? いや、そうじゃない。教官は何と言った? エルが人を殺したと? あの天真爛漫なエルが?
ゆっくりと言葉の意味を理解すると夢から強制的に起こされたように感じた。
「違う…」
通信機からエルの声が聞こえた。けれどそのせいでそれがはっきり嘘だと分かってしまった。何しろずっと一緒にいたから声の震えだけで本当か嘘か分かってしまう。
「だ、だって撃ってきたから! 殺すつもりなんて!」
「そういうことだよ」
どういうことなのか?
疑問に思うことも許されず有無を言わさず教官はエルに銃を放った。
エルは宇宙服の操縦が上手い。普段なら逃れることは容易かっただろう。しかし動揺していたエルはそれをまともに受けた。直撃。他の生徒と同じように爆散。そして死…いや
「やめろ! 」
考えるより体が先に動いていた。
教官の銃がエルの射線に入らないように射撃、自分の宇宙服を割り込ませる。
大丈夫だ。一撃ならまだ。今僕達の乗る宇宙服は対大気圏突入用に追加装甲が取り付けてある。僕のは使い捨ての脱ぎ捨て型。エルのは一体化型。通常の宇宙服よりは丈夫にできている。
「やはり面白いな。もっと早く話ができていればよかった」
教官は狙いを僕に切り替え銃を放つが僕は追加装甲の部分に当たるように真っすぐにつっこませる。技量が違っていても身を切れば近づくことはできる。けれど決定打を与えるような隙はないだろう。直進しながら次の行動を考える。
「何!? 」
僕は大気圏突入後に切り捨てるはずの追加装甲をパージした。そんなことをしたらもう僕は地球に降りることは出来なくなる。自殺行為だ。教官の頭には全くない行動だろう。だからこそ一瞬だけ隙をつくることができる。
それは一回きりのチャンスだった。次のチャンスはもうない。このチャンスで教官に言葉で説得しようにも聞いてくれるかどうかは分からない。確実に教官を止めるためには僕は教官を殺すしかなかった。不思議だった。まるで現実感がない。僕は人を殺そうとしているのに恐れることはなかった。むしろはやくしないとというせかす思いすらあった。
「見事だ…」
宇宙服を貫かれつつも教官はかろうじて生きているみたいだった。直前に手を緩めた、わけではない。確実にコクピットを狙った。でもだからこそ行動が読まれて避けることに成功したようだ。最ももう動けそうにはないが。
教官の宇宙服は一番オーソドックスなタイプだった。大きな盾をもって大気圏に突入する。別に鎧のように追加装甲をつける必要なんてない。それが一番シンプルで確実な方法だ。もし教官の宇宙服が僕達のように追加装甲を鎧のように取り付けるタイプの物であったなら結果は違っていたかもしれない。
「これで制限時間が延びるな。君は地球に降りることができる」
そういえば制限時間はもう1分をきっていた。このまま何もしないつもりだったからすっかり忘れていた。
「大気圏突入用の装甲は切り離してしまいました。どっちみち地球に降りるのは無理です」
「私の盾を使えばいいだろう。そうだな。私の宇宙服がこのタイプなのも多分そのせいなのだ。戦闘で装甲が損傷しても地球に降りれるように」
ということは、装甲を切り離した僕の行動は読まれていたのだろうか? それでもあえてそれを受けた。教官は最初から負けるつもりだったのかもしれない。
「ふふふ、また妙なことを考えているようだが。私も死ぬつもりはなかったさ。ただ思い出したんだよ。最初の試験のことをね」
「最初の試験? 」
「私がまだ君たちと同じ教官ではなかったころ地球に降りたことがあるのだ」
今回の試験のようなことを過去にも何回かしているのだろうか? 僕が指摘したように教官は未来の僕達と言うのはあながち間違いではなかったらしい。
「その時、地球人と会った」
「…!? 」
「考えてもみたまえ隕石が落ちて500年。もうとっくに地球に戻っても良かったはずだ。たとえ地球が氷河期であったとしてもこの宇宙よりましな…少なくとも大差ない環境じゃないか」
確かに教官の言うとおりだ。どうしてすぐに地球に戻らなかったのだろう? 逃げてしまった手前受け入れてもらえなかったのだろうか?
「あの時地球に逃げていればこんな風にはならなかったかもしれない」
教官の声は次第に弱弱しくなっていった。
「僕は教官に教えてもらってよかったと思いますけど」
「…」
教官の声はもう聞こえなかった。
「そうだ。エルは…」
僕は盾を回収するとエルを探した。地球に降りるつもりはなかったけれど教官の言葉は気になった。地球人がいるのなら会ってみたいという気持ちが芽生えていた。
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