第十六話

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第十六話

『キクハナ小春は神! 異論は認めん!』 『〇んでほしいヤツがマジで〇んだ! やっぱ小春たんは神!』 『この前消えてほしかった野郎が電車に跳ねられた(藁)』 『書きこむだけで殺してくれるの有難すぎるんだが』 『小春スレッド伸びすぎ』 『でも1人しか殺してくれないのが残念だな。100人くらい殺してほしいやついるんだが』 『1人でも頼めばやってくれるだけマシだろ?』 『願ったら親友が死んだんだが』 『お前のダチが怨まれてただけだろ』 『お前も俺も小春たんに殺される可能性があるってことだ』 『バトルロワイヤル感がたまらん』 『小春たんに殺されるなら本望』 『俺まだ誰殺してもらおうか悩んでる。死んでほしいやつ多すぎんだよ』 『あみだくじでもやって決めろ』 『小春たんに仕えてる巫女も萌える』 『なんつったっけ?』 『カエちゃんだろ』 『小春たんに仕える年上巫女とか設定盛りすぎだろ』 『バカ、そこがいいんだろうが』 『カエちゃん様がいなかったら小春たんに近づけんぞ』 『設定だろ。中身は醜いおっさん』 『かわいい絵はみんなおっさんが描いてんぞ』 『そこが良いんだろうが』 『小春たんとカエちゃん様の百合キボンヌ』 『どっかのスレッドで見たわ』 『どこのスレッドだ?』 『スレ多すぎて探しきれん!』 『つーか小春たん何人殺してんだ?』 『余裕で1000は超えてる』 『1万かもしれんぞ』 『怖すぎ』 『神だからな』 『お前ら感謝の気持ち忘れんなよ』 『誰か小春たんの画像持ってない?』 『あるで』  ネットに上げられていた画像はとてもかわいい女の子のイラストだった。  赤い着物に整えられたオカッパ頭。  腕には同じ姿の人形が抱かれていた。 『萌え』 『カエちゃん様はないん?』 『あるで』  凛々しい少女と女性の間のような女が巫女の服装で(ほうき)持ち、長い黒髪を後ろ手に結び、後れ毛を少し垂らしている絵だった。 『保存したわ』 『サンクス』 「ネットの世界ではとっくに神になっていたってわけ」  カスミは板チョコをパキリと折って全てに諦めているかのように言った。 「いつからこんな……」 「少なくても一週間前にはもうこんなことになっていたっぽい」 「カエっていうのは姉……タカエですよね」 「そうだろうな」 「で? 巫女のカムイ的にはこれをどう思う?」  パソコンの画面に顔を近づけてじっくり見るとカムイは言った。 「この絵、上手いな」 「絵以外で言うことないのかよ」 「そうだな……ノリ子?」 「はい」 「タカエは……処女だったか?」  部屋が静寂に包まれた。 「えっと……」 「カムイ、セクハラ……」 「今時、巫女は処女でなければいけないというのは古い考えになったが、これだけ大がかりのことをやるようなヤツらだ。それくらいの本気度はあるだろ」 「そんなの知りませんよ。お姉ちゃんが誰と付き合っていたかも知らないし、お姉ちゃんとの思い出なんて5歳のときまでしか無いんですから」 「それもそうだな」 「そんなこと考えればわかることじゃない。ノリ子ちゃんは聞かれ損だし、結局ただのセクハラになったじゃない」 「……ノリ子すまない。ボクの軽率な発言だった」 「いえ、大丈夫です。必要なことですから」 「念のために聞きますけど何でそんな質問を? 理由は巫女とか関係無しにありますよね?」 「ネットで話題になっている小春は別の人間の可能性があるかと思ってな」 「別の……」 「別のって……まさか」 「タカエの娘の可能性だ」 「……そうですね」 「ノリ子ちゃん……無理しないで」 「いえ、可能性としてはそっちの方が高いですよね。お姉ちゃんが20歳で子どもを産んでいたとしたら多分、今頃子どもは10歳……下手したら中学生くらいに育っていると思いますし」 「じゃあ、ノリ子ちゃんの友達の小春ちゃんはどこに行ったの?」 カスミの疑問にカムイは考え事の癖である、額を人差し指でこつこつと叩いていた。 ――ノリ子ちゃん、見てて……。 「……ッ」 ノリ子の頭に電流が流れたような痛みが走った。 すると、脳内にビジョンが入ってきた。 ――ここはどこだろう?  先程いたカスミの部屋ではなかった。 ――ここはどこだろう。 ――あれ? 私、椅子に座っているのかな。 ――なんでこんなに真っ暗なんだろう。  そう思ったとき、目の前だけが明るくなった。  それはスポットライトの明るさだった。  その真ん中に面をつけ、緋色の袴に白の小袖を着た、いわゆる巫女の装束を着た人物が舞っていた。 ――なんて、美しいのだろう。 ――どれくらいの時間、巫女は舞い、私は見入っていたのだろう。  すると、巫女の背後からキツネの面を付けた幼い少女が赤い着物で現れた。  そして、手に持った短刀で巫女の心臓を貫いた。 ――ノリ子ちゃん、助けて。  痛みはそこで治まった。 「ノリ子、大丈夫か?」  気が付くとカムイの顔が目の前にあった。 「あれ? 私……」 「急に頭を抱え込んでしゃがみ込んだんだ」 「あまりにも痛そうだったからアタシとカムイで横にしたんだ」 ノリ子の額には濡らしたタオルが乗っかていた。 「カムイさん……」 「どうした?」 「小春がどこにいるかわかりました」  小春の都市伝説はテレビにも取り上げられるようになっていた。   『現在、世間を騒がせている都市伝説『こはるちゃん』。ネットのあるサイトに人の名前を書きこむと、書きこまれた人は亡くなってしまうというものらしいのですが、真偽のほどは如何なものなんでしょうか? すでに何にもの方が亡くなっていると噂ですが、この都市伝説を解明しようと我々テレビ局は……』 「くだらん」  カムイはイラ立ちながらテレビを消した。 「テレビでこんな(あお)り方したら小春の存在がますます巨大になるぞ」 「これでは映画化待った無しですね」  ノリ子は気の抜けたような他人事のように言った。 「ノリ子ちゃんも言うようになったね」  カスミはポテトチップスを三人で分け合えるように袋の背も破き、いわゆるパーティ開けにして、テーブルに置いた。 「ここまで来たら冷静にもなりますよ」  ポテトチップスを乱暴に掴み、ノリ子は口に押し込むとコーラで流し込んだ。 「ノリ子、なんて食べ方だ。カスミみたいになるぞ」 「それはノリ子ちゃんがアタシのように聡明な天才になると捉えていいのかな? カムイちゃんよ……?」  笑っているがカスミの物言いには少しの怒りが含まれていた。 「脳みそが糖分の固まりになる」 「糖分取らないとアタシはとっくに干からびたミイラになるの。まあ、ミイラになるには日本の環境は厳しいし、即身仏というものもあるけど、アタシは即身仏になる気はないけどね」
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