プロローグ

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プロローグ

『ノリ子ちゃんが一緒だから怖くないよ』 『私も小春ちゃんが一緒だから怖くない』  車の中で揺られながらふたりの少女は手を握り合った。 『ふたりとも着いたわよ』  懐かしい母親の声だ。 『ねぇ、お母さん。本当に怖くないの? お医者さん、怖くないの?』 『怖くないわよ。アナタたちがとても賢い子たちだからお医者さんびっくりして、検査したいんだって』 『聞いた小春ちゃん! 私たち賢いんだって!』 『そうなんだー。でも、私、ひらがなも算数もできないよ?』 『賢さってね。勉強だけじゃないの』  母親の声は優しかったが、笑ってはいなかった。  大きな白い箱が見えてきた。  子どもの私の目には病院がそう見えていた。  白い箱の中では命が生まれ、消えていくを繰り返す。  生きるためにたくさんの人が一日一日を生きている。  子どもの私にそこまでの理解があったのかはわからないが、肌で感じていたのだろうか、 今でも病院の前へ行くと子どもの頃の感覚が蘇る。 『いやだ! もうお医者さんに行きたくない!』 いつ頃の記憶だろう。 『わがまま言わないの! アナタは病気なのよ! お医者さんに見てもらわなきゃ治らないの!』  母親の苛立った声が聞こえる。  病気? 病気とは一体……? 『お医者さんに行くくらいなら治らなくて良い! このままで良い!』  私は何の病気を患っていたというのだろう。 『ノリ子ちゃん……。お医者さん、イヤ?』  少女の声が聞こえた。 『小春ちゃんはイヤじゃないの?』  私と一緒に医者に連れていかれた少女は小春というらしい。 『ノリ子ちゃんの分まで、小春がお医者さんに行ってあげるね』 『小春ちゃ……ん?』  あのときの言葉は何を意味していたのだろう。  いつからか私はこの会話を、小春という少女を記憶の箱へとじ込めていた。  記憶の箱が開かれたとき、過去と現在、神と巫女の戦いが始まる。
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