狂い咲いて、乱れ落ちて

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狂い咲いて、乱れ落ちて

突然、克伊にキスをされた零。 思わぬ事に、すぐさま彼を突き飛ばす。 唇にずっと感触が居座っている。 何処か懐かしいあの感触が。 「な、何をして…」 「新崎さん、俺…」 「それ以上、近づかないでくれ」 これ以上、自分の心に踏み込まれたら、何かが崩れ去ってしまう。 零は本能でそう感じ取った。 「克伊さん。今、キミが僕にした事がどういう事か、わかってる?」 「はい」 睨むような零の目を、克伊は真っ直ぐ見つめている。 「新崎さんのコト、もっと知りたい。この作品を見て、そう思いました」 真剣な克伊の表情に、零の心はさらに揺さぶられる。 「こ、これ以上はお互い、不幸になるだけだよ」 零はそう言い放ち、踵を返す。 早くこの部屋から出よう。 過ちを犯す前に。 零はその思いから、足を踏み出す。 その時である。 克伊に強く腕を掴まれたのだ。 「ッ!」 「なんで、逃げるんですか?」 克伊の言葉に、零は無言を貫く。 「だって」 「じゃあなんで、そんな顔をするんですか?」 部屋の隅にあった鏡に、自分の顔が映り込む。 いつも以上に顔が熱を帯びている事に、零は驚く。 「僕は…」 零の視界に映る克伊の姿が、少しずつ泰雅の姿に重なる。 そんなはず、ないのに。 「新崎さん。貴方は本当に美しい人です」 そう言って、克伊は零の身体を抱き寄せる。 零は突然の事に、さらに混乱する。 久し振りに感じるヒトの体温に、自分が喜んでいる? そんなはず、ない…のに…。 「克伊さん、やめ…」 だが、零の言葉を遮るように克伊に再び唇を奪われる。 全身が痺れ、何もかもが解放される感覚に包まれた。 顔が離れ、二人の視線がぶつかる。 克伊の手が零の顎を引く。 「やっぱり、新崎さんは美しいです」 その言葉は克伊ではなく、想い人の泰雅から言われたように思えた。 そのままキスを重ねながら、身体を押され、部屋の入口のドアの前まで零は連れて行かれる。 克伊が手を伸ばし、ガチャリと扉の鍵を閉めた。 もう、零に逃げ場は無くなった。 心は克伊を拒否したいのに、身体が克伊からの刺激を期待している。 その事実に、零は身震いした。 克伊は無言のまま、零の服を一枚ずつ剝いでいく。 泰雅以外に晒すことのないその身体が露わになる。 歳を感じない、無駄のない身体に克伊は息を呑んだ。 そのまま克伊も服を脱がされ、互いにその手で胸の先端を刺激しあう。 二人の小さく喘ぐ声が、キスをする唇の合間から漏れる。 さらにその手を互いの下腹部に伸ばすと、膨らんだモノを確かめ合う。 この刺激が零の心に火を付けた。 克伊の身体を押し倒し、彼の胸を舌で攻めながら、下半身を厭らしく触る。 「あっ…」 克伊は恥ずかしさを感じたのか、自分の口を手で覆う。 あの整った顔が快楽に歪む光景に、零は興奮を押さえられなくなる。 そして、そのまま克伊の服を全て剥ぎ取った。 服が床に落ちると、周りに敷き詰められた花々がフワッと宙に舞った。 ずっと彼の全てを見てみたいと心の奥底で思って居た零の本能。 迷うことなく、露わになった彼の起立した陰茎を、零はその口に含む。 「あっ、ううっ…」 克伊は今まで感じた事のない刺激に声を上げてしまう。 「良いよ。もっと声を出して」 零は言葉で彼の性の箍を外しにかかる。 「き、気持ち、良いです…」 克伊は素直にそう口にする。 零の口元が怪しく緩む。 さらに彼に与える刺激を強くしながら、零はそのまま視線を変える。 遠くには全てを解放したあの天使の姿があり、手前にはよがり続ける克伊の姿。 あまりにも卑猥すぎるこの空間に、零の心は激しく乱れた。 「れ、零さん!」 克伊は初めて零の名を呼んだ。 ピクリと彼の動きが止まる。 「克伊…さん?」 身体を起こし、零の髪を撫でながら、優しく彼の頬に触れる。 「今度は俺にさせて下さい」 笑みを見せながら、克伊はそのまま体制を変え、零の上に跨る。 先程自分が受けた刺激を同じように彼に与えようとしている。 零も服を剥がれ、ついに二人は生まれたままの姿になった。 克伊は初めて、他人の怒張を恐る恐る口に含んだ。 気持ち悪いかと思ったが、全くそんな事はなかった。 「あっ…」 寧ろ、快楽の声を上げる零の姿を見て、興奮を覚えた。 「気持ち、良いですか?」 不慣れな攻めも、何処か愛おしい。 「…うん」 もう、零は虚勢を張るのをやめた。 観念して今はこの素晴らしき性の世界に身を委ねる。 零は体制を変えると、互いの陰部を口に収めるよう克伊を誘導する。 強すぎる快楽と嬌声が口の隙間から漏れる。 「零さん、コレ…ダメです…」 「あっ、気持ち、いい…」 周りを花に囲まれながら、作品の前で性を貪り合う二人はどこまでも美しく見えた。 「零さん、もう…」 「僕も…」 そのまま二人は身体を起こし、身体を抱き寄せながらキスをする。 そして、互いの陰部を合わせる。 ぬるつく陰部を互いの手で扱き合う。 逃げ場のない快楽地獄。 二人は叫びに似た声を上げ続ける。 激しく口を貪り合い、荒い呼吸が肌に当たる。 「零さん…」 「克伊さん…」 互いの名を口にしながら、ついに二人は絶頂を迎える。 その瞬間、飛びそうになる意識の中、零は床一面に敷き詰められた花々が怪しく光ったように見えた。 ほぼ同時に二人は射精する。 熱いドロリとした精液が互いの手を、腹部を激しく何度も汚す。 そのまま二人は呼吸が整うまで身体を抱き寄せ合う。 まさに作品の世界観を二人は体現して見せたのだった。 部屋の隅にある鏡に映る二人の姿はどこまでも性のケダモノであり、どこまでも純粋で美しかった。
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