舞い散る椿に身を焦がして

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舞い散る椿に身を焦がして

どれくらいの時間、抱き合っていたかはわからない。 顔を離し、視線が合うと、思わず二人は恥ずかしくなったのか、顔を背ける。 しかし、克伊の目は未だ闘志を帯びているような、何かを渇望するような雰囲気を見せていた。 零は熱い粘液で汚れた手を拭こうと、遠くに投げ捨てられていた作業で使っていたタオルに目を向け、立ち上がろうとした。 その時。 克伊のぬるついた手で腕を掴まれた。 「克伊、さん?」 「零さん…。俺、まだ…」 上目づかいのまま、顔を上気させ零の顔をじっと見つめている。 すでに彼の陰部は再び熱を帯びていて、浮き出た腹筋も赤く高揚していた。 余りにも卑猥な光景に零は息を呑み、恐怖すら感じていた。 一体彼はどうしてしまったのだろうか。 この部屋には秘密の徒花である  は置いていない。 何が彼をここまで性に、快楽に、貪欲で野性的にさせているのか。 「もっと、触って、下さい…」 克伊に言われるがまま、手を引かれ、零は彼の怒張を握らされた。 ただ触れただけで彼の口からは吐息が漏れ、下腹部からは厭らしい擬音が溢れ出す。 零もその手を放そうとするが、身体が言う事を聞かない。 床に埋め尽くされた花々がまるで、漣のように花弁を揺らし始める。 そして、遠くに見える解放された天使の姿が映るあの作品からも、ぼんやりと光を放っているように見えた。 (まさか…) 零ははっきりと理解した。 作品と花々の未知の力が、自分達を快楽と言う究極の異空間へ突き落としたのだと。 (嗚呼。これが僕の求めていた理想郷、なのか…) 究極の美醜を追い求め作品作りに邁進して来たが、この瞬間、上手く説明出来ないが、境地とやらに足を踏み入れたような感覚に包まれた。 「もっと、もっと…」 克伊は呂律が回らないくらい、快楽の波にどっぷり浸かっていた。 零の手が彼の陰部を扱く度に、身体が痙攣するように震え、全身で喜びを表現しているようだった。 (なんて、卑猥なんだ) 零はそう思いながらも、獣になった克伊の姿から目を離す事が出来なかった。 見逃してなるものかと、身体の奥底から訴えかけてくるから。 「ほら、零さんも…」 荒い呼吸の中、克伊がそう言いながら、零の陰部に手を伸ばす。 「あっ!」 彼の手が余りにも熱い。 そして、その温もりが形容し難い程に、気持ち良い。 心で跳ね付けようとしても、身体がそれを受け入れてしまう。 零自身も簡単に、再び押し寄せて来た性の戒めに縛られてしまった。 「零さんも、気持ち良くなって?」 彼の口から今まで聞いた事のない、声のトーンだった。 脳が痺れるような甘ったるく、耳に纏わりつく厭らしい声だ。 そのまま克伊は、体勢を変え、色々な粘液で汚れている零のモノを、あろうことか口に含んだのだ。 「あっ、ああっ!」 零は今まで感じた事のない快感に包まれた。 彼の口内が熱せられた鉄のように熱く、蠢く舌が的確に零を絶頂へと歩を進ませる。 「克伊さん、口を、離して…」 零が彼の頭に手をやり、そこから引き離そうとする。 「…やだ」 そう言って、克伊は色々な粘液で口元を汚したまま、零をじっと見つめた。 怪しげな笑みを見せながら。 なおも、彼は零への攻めの手を緩めない。 だが、その表情は零の心に、さらに火を付けることとなる。 そのまま克伊の頭を掴み、無理やり己の怒張を喉奥へと突き立てた。 「んんっ…」 突然の事に、克伊は苦しくなり口を離してしまった。 零はそのまま、彼を重厚感のある扉へ押し倒し、ドロドロの彼の陰茎を口に収めてしまった。 「ああっ! ああっ!」 強烈な刺激に、克伊は身体を震わせる。 零を本気にさせた彼に、もう逃げ場は残されて居なかった。 「だ、だめ…。零、さん」 克伊は余りの気持ち良さに顔をゆがめながら、天を仰ぐ。 今更そんな事を言っても遅い。 もっとよがり狂えよ。 僕を満足させるくらい、喘いで厭らしい顔を見せろ。 そうして、綺麗な身体を晒しながら、僕の前で逝くんだよ。 零は心の中で叫びながら、彼への激しい愛撫を止めない。 そんな克伊は、零の内に秘めていたサディスティックな一面を感じ取っていて、恐怖に似た興奮を覚えた。 箍が外れた零自身も、自らの手で己の陰部を扱き始める。 呼吸を荒げながらも、口元と舌先で克伊へ強烈な刺激を与え続ける。 そんな克伊も自らの指を鍛え上げられた胸筋の先端へ向かわせる。 それが自殺行為である事が分かっていながらも、身体が勝手にそうさせる。 指がそこに触れた瞬間、電撃が走るかのような感覚に陥り、頭の奥が蕩け始めた。 「うあっ! ああッ!」 甘ったるいあの声で叫び出す克伊。 体重を預けている扉がギシギシと軋む程、彼の身体は激しく震え始める。 その度に、零の口に注がれる彼の粘液。 「ん、ふっ…」 呼吸を確保しながらも、再び絶頂へと向かうため、零は手で扱くスピードを早める。 周りの花々は揺らぎながら、この異空間で繰り広げられる、二人のケダモノのような逢瀬を静かに見守っていた。 「ああっ…。零、さん…。い、イくッ!」 克伊は思わず零の頭を押さえつけながら、彼の口の中で果て、何度も熱い液体を打ち付けた。 そして零も克伊のモノから口を離し、張り詰めた陰部を扱き上げ、そのまま克伊の腹部へ精を放った。 その瞬間だった。 バキッと言う鈍い音と共に、ドアの鍵が外れた(正確に言うと壊れた)。 ドアが床を擦りながら、ゆっくりと開いた。 吹き込んだ風に敷き詰められた花々がフワリと舞う。 そこには作品の前で、美しい花々に囲まれた二人の使が居た。 「ねえ、気持ち良かった?」 口から白い血のような液体を溢しながら、零は床に倒れたまま動かない克伊を見下ろし、そう言ってみせた。 その凛々しい顔に怪しい笑みを残しながら。
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