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快楽に飢えたケダモノ
広いリビングで零は一人、静かに夕食を摂っていた。
元々自炊はしない人間だったので、いつもスーパーの惣菜で済ませている。
専ら、料理は泰雅に任せていたと言う事もあり、自ら包丁すら握る事もなかった。
彼が研究の為、渡米してから結構な時が流れた。
お互いに命の危険が迫った時だけ連絡をすることに決めてしまった為、
そう安々と通話も出来ない状況だった。
二人とも約束は律儀に守るタイプの人間らしい。
食事を食べ終わり、ゆっくりと息を吐く。
この時間が一番寂しく、とてつもなく不安になり、虚しくもなる。
埋まらない心のパズルのピース。
美しい作品を眺めても、食事で腹を満たしても、彼の本心は満たされない。
自分が最も信頼し、全てを捧げても良いと思える泰雅と言う存在が今、手の届く範囲に居ない。
そう文字で脳裏に浮かべた時、堪らなくなる。
(嗚呼、今日は僕、弱ってるな…)
珍しく弱気の零は早々と食器を片付け、普段開ける事のない泰雅の部屋へ足を向けた。
ドアを開けた瞬間、フワッと彼の香りがしたように思えた。
泰雅が渡米してから、部屋はそのままにしている。
太陽の日差しが気持ちいい日は、時々窓を開け、清々しい風を部屋に入れたりすることもある。
別の場所に居る彼が喜ぶのではないかと心の何処かで思いながら。
真っ暗な部屋へ足を踏み入れ、彼がいつも寝ていたベッドに腰掛ける。
どうしても寂しくなった時は、こうして泰雅の匂いを求め、この部屋を訪れてしまう。
そして、零は思い出すのだ。
ここで彼と何度も身体を重ねた体験を。
~~~~~
(泰雅の目、透き通っていて綺麗だ。普段、眼鏡を掛けているから、気が付かないけど)
零は彼の頬に手を触れながらそう言った。
(五月蠅い。眼鏡を掛けてないと、年相応に見られないんだよ)
言葉で突き放そうとしても、泰雅の顔は赤らめたままだった。
(本当に泰雅は綺麗だよ)
(零…俺は…)
それから二人は激しく唇を貪り合い、身体を寄せ合った。
~~~~~
零はハッと意識を取り戻す。
先程までの光景は、泡が弾けるように消えてしまった。
「…」
零は泰雅の枕に顔を埋める。
何でも良い。
彼の匂いを感じていたい。
そして、そのまま手を自らの下腹部へ伸ばす。
部屋着の上から己の陰部を厭らしく触ると、得も言われぬ感覚に陥る。
そのまま手を服の中に押し込み、今度は下着の上からそこに触れる。
少し刺激が強くなり、零は少しずつ高揚し、声にならない声を上げた。
(泰雅…。本当は今すぐお前を…)
零は再び脳裏に、彼との逢瀬の時を思い出す。
~~~~~
互いの服を剥ぎ取り、素肌を晒しながら、二人はそれぞれの口に相手の怒張を咥え合っていた。
(あっ…零。コレ、やばっ…)
(僕も…。泰雅のその顔、すげぇ、そそる)
二人は刺激を与えあう事を止めない。
荒い呼吸、粘膜が擦れる音、ベッドの軋む音。
それらが合わさり、二人を包み込む。
零は身体の体勢を変え、そのまま舌を泰雅の尻奥へと向けた。
(う、あっ…)
別の刺激に、思わず泰雅は零のモノから口を離してしまった。
(まだ駄目だよ…。俺、慣れてないんだからさ)
(わかってる。痛くしないから)
そう言いつつも、零は彼の誰にも見せない秘奥を解して行く。
その度に、彼からは空気が漏れるような喘ぎ声が響いた。
普段整った泰雅の顔が、快楽に溺れる様はまるで禁忌のような美しさであった。
~~~~~
零が再び意識を取り戻すと、彼は自然と服を全て剥ぎ、自らの陰部を激しく扱いていた。
零の裸体はしなやかさを残していた。
泰雅にいつでもその身を晒しても良いように。
声が漏れぬように、泰雅が使っていた枕を顔にあてがう。
片方の手で胸を愛撫しながら、卑猥に己の局部を攻め続ける。
零の中の獣が唸り声を上げ始める。
それから零の脳裏には、何度も泰雅の中に入り、互いに壊れるくらい愛し合った日々が浮かんでは消えて行く。
~~~~~
(零…。もっと、気持ち良くなって…。もっと、突いて良いよ!)
泰雅の口から獣のような声が溢れ出る。
普段の彼から想像もつかない光景だ。
(ああ。泰雅も、もっとよがって良いんだよ。一緒に気持ち良くなろう)
零が彼の奥を突く度に、互いに強すぎる快感の電撃が走る。
加えて、泰雅を犯すと言う背徳感がより強烈に零の快楽度を高めた。
リミッターが壊れた二人はもう、本能のまま互いの全てを喰らい合った。
~~~~~
「あっ…。た、泰雅…。僕、もう、イくっ…」
零は身体を痙攣させながら、激しく絶頂を迎えた。
自らの腹部の上に、白い華を咲き乱れさせた。
乱れた呼吸のまま、天井を見上げる。
こんな姿、誰にも、ましてや泰雅になど絶対に見せたくはない。
少しだけ、泰雅の気配を感じる事が出来たが、何故か零の目からは静かに涙が零れていた。
それから零はフラフラとした足取りで風呂場へと向かう。
少し熱めのシャワーを頭から被る。
彼の身体を汚していた白い華達が、身体を沿うように滑らかに落ちて行く。
それはまるで寂しさと獣の自分の醜態を洗い流す優しい雨のようだった。
こうして零は、寂しさで押し潰されそうな時を一つずつ越えて行く。
泰雅が舞い戻って来るその日まで。
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