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「もう出よう」
そう言ったのは、すずの方だった。
俺はただ小さく頷き、伝票を手に取り支払いを済ます。
外に出ると先に店を出ていたすずが空を見上げ手を伸ばしていた。
「何やってんの?」
俺の言葉に振り返ったすずは、「綺麗なものに触りたくなったの」
と意味不明な発言。
「触れねぇだろうが」
真面目に返した俺に、
「ふふ、だよね。あんな綺麗なものに触れたら、自分が消えちゃいそうだよ」
「……」
ますます意味不明。でも笑い飛ばすこともできず、俺はなんて返していいかわからない。
あぁ、ふがいないな……。
俺は何も思いつかなかった。
「柊ちゃん、ご飯、ご馳走様ね」
「え?あ、あぁ……。そうだ、すず、これ――、」
無造作に二つに折りたたんだ万札5枚。
俺はポケットからすずに向かって差し出した。
すずはチラリと視線を落とし、すぐに顔をあげ首をふった。
「いらない」
「え?」
「もう、いいや。いらない。普通に楽しかったし、ご飯もご馳走になったからもういらない」
「え、でも、それじゃ困るだろう?」
「その話は柊ちゃんには関係ないから気にしないで」
それは今更無理な話だ。
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