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「お前……もしかして家に帰らず、またあそこの路地に戻るつもりなのか?」
嫌な予感がして、つい漏らしてしまった俺の本音。
すずは少し驚いた表情を一瞬見せ、そして今度は辛そうに顔を歪めた。
傷つけた――、そう思った時にはすでに遅し、
「あー、どうかな……。わかんないや」
逸らされた視線。
「すず……」
「でも今日は――、やめとこうかな」
「え……」
「うん。そうだな、帰ろうかな……。だってあそこに戻ったら、せっかくの楽しい気分が台無しになりそうだもん」
「本当に帰る?」
「うん」
「なら、送る」
「柊ちゃん、私の家知らないでしょ。昔の家とは違うよ。引っ越ししたからね」
「あ~、そうだっけ。そんなこともあったような……」
遠い過去の記憶。はっきりとは覚えてない。
「今はどこに住んでるんだ?」
「知ってどうするの?」
「どうもしないけど……、どこに引っ越したの?」
「どうもしないのに聞くなんて変なの……。今は前に住んでた場所の隣駅だよ」
「なら近いし送る」
「それはいいや」
「え?」
「一人で大丈夫だから」
線引きされた。そう思った。
何故思ったかはわからない。
すずは別に怒ってるわけでのなく、笑っているけれど、
でも、もう会わない、そう言われた気がした。
なんだか無性に腹が立った。
それは何に?
俺はまだその答えを持っていない。
けど、腹が立った。
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