1.繁華街の夜

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あ~、もうっ 怒りがこみ上げる。 もちろん、すずに怒ってるわけではない。 何かの怒りだ。 この状況に対する怒りだ。 叫びだしたい衝動に駆られ、顔を跳ね上げたけれど、出来なかった。 すずが俺をジッと見ている。 黒い双眼が俺を見透かすようにジッと見ている。 俺はそれを自覚しながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。 一度目を伏せ、ゆっくりと瞼を開く。 「よし、わかった――、わかった、わかった、わかった」 「え?柊ちゃん?」 視線で何がわかったの?と聞いてくる。 「よくわかった」 俺はすずではなく自分に言い聞かせるように小さく頷き、言葉を繰り返す。 すずは混乱して首を傾げている。 そりゃそうだ。 わかったと言いながら俺が全然わかっていない。 だけど、この場はそう言うしかない。なかったんだ。 「すず、明日は、7時、いや7時半?あー、8時でもいいや、過ぎてもいいや。とにかく来い。店に絶対来いっ」 「え……」 「待ってるからな、絶対に来い」 すずに念押しするかのように何度も指を突き出し、身体は反対に後ろに下がる。 「柊ちゃん?」 「来るまでずーっと待ってるからなっ!」 言い逃げして夜闇にダッシュ。 振り返らずに俺は走った。 俺はいったい何がしたいのか――、 あー、ダメだ、全然わからない。
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