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あ~、もうっ
怒りがこみ上げる。
もちろん、すずに怒ってるわけではない。
何かの怒りだ。
この状況に対する怒りだ。
叫びだしたい衝動に駆られ、顔を跳ね上げたけれど、出来なかった。
すずが俺をジッと見ている。
黒い双眼が俺を見透かすようにジッと見ている。
俺はそれを自覚しながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
一度目を伏せ、ゆっくりと瞼を開く。
「よし、わかった――、わかった、わかった、わかった」
「え?柊ちゃん?」
視線で何がわかったの?と聞いてくる。
「よくわかった」
俺はすずではなく自分に言い聞かせるように小さく頷き、言葉を繰り返す。
すずは混乱して首を傾げている。
そりゃそうだ。
わかったと言いながら俺が全然わかっていない。
だけど、この場はそう言うしかない。なかったんだ。
「すず、明日は、7時、いや7時半?あー、8時でもいいや、過ぎてもいいや。とにかく来い。店に絶対来いっ」
「え……」
「待ってるからな、絶対に来い」
すずに念押しするかのように何度も指を突き出し、身体は反対に後ろに下がる。
「柊ちゃん?」
「来るまでずーっと待ってるからなっ!」
言い逃げして夜闇にダッシュ。
振り返らずに俺は走った。
俺はいったい何がしたいのか――、
あー、ダメだ、全然わからない。
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