1.繁華街の夜

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俺はいったいすずの何なんだ? 自問自答したタイミングで、いや待て、そもそもお前こそ何なんだよ。 すずの――、 チラリと視線をあげた先にキモイ親父。そしてすず、なのか、リンなのか? って、あほらし。 眼鏡をあげるその仕草がカンに触るな。 何なんだ、親父。 俺はお前に名乗る名前は持ってねぇ――、と言いそうになり、 あ、いいこと思いついた。 俺はおもむろにポケットをゴソゴソ。 あ、見てる見てる。 親父の視線を存分に引き付けて――、財布から名刺を取り出した。 そして 「失礼なことを言ってすいません、俺、こういうものです」 と言えば、慌てた向こうは急いで自分の名刺を用意して俺に名刺を差し出した。 はい、素早く受け取り、名前を確認~。悲しぃねぇ、サラリーマンの性。 「へぇ~、とーってもいい企業にお勤めで~。佐々木、え~っと、弘さん、かな?」 「はい、えっとこちらは――、ピンクさん?」 「はい、ピンクです」 俺は笑顔で返事を返す。 「え?」 「あ、すいませんねぇ、俺、名刺なんて持ってなくって。それ、さっきの女の子のです、ほら、俺をバチンと叩いた」 「は?」 「よかったら、お店行ってやってください。未成年とホテル行くより、よっぽど健全ですよ~」 「はぁ?」 「さ、どうします?警察電話しますか?援助交際してますって」 「そ、そんなっ、そっちが先に――、」 ほ~、すずが誘った、と……。 じろりとすずに視線を向ければ、フンと鼻を鳴らされる。 「リンちゃん、何とか言ってよ」 すずに手を伸ばそうてして、 「リンリンリンリンうっせ~よ。とっとと消えろ!次見かけたら、会社に怒鳴り込むからな。覚えとけ!」 すごんで見せたら、薄~い鞄を胸に抱きしめ、いそいそとこけそうになりながら走って逃げて行った。
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