石の壁の家

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 だから、この話は取調室で起きる話です。  窓は北を向いていて、天井の蛍光灯も心なしか暗い部屋でした。さらにはその蛍光灯すら切れかかって、不安定な光が揺れています。それを埋め合わせるかのように太陽の光は明るかったのですが、北向き窓のため、あまり室内には入ってきませんでした。 「……黒田、啓さん」  穏やかな笑みを浮かべて、白神は私を見つめ、そう口にしました。 「白神楓……だな」  その奇妙な態度に気圧されつつ、私は名前を尋ねます。  白神楓の様子について話しておくべきでしょう。髪の毛は白く、目は赤い。肌は雪のように白かった。恐らくアルビノなのだと思います。私は一七六センチメートルありますが、それよりも少し低い。黒のタートルネックに白のズボンという出で立ちで、胸板は薄く、腕や足は痩せた女のように細い。この華奢な男が、あの大それた犯罪を犯したのは、私にはどうにも信じられませんでした。  年齢は私と同じで、三十歳とのことでした。 「白神って、おかしいでしょう? この白い髪だから白神。ボクには名字がなかったから、必要になった時に名付けられたんだ」  自分の前髪を指で摘みながら、白神は私に、そんな風に親しげに、私に話しかけます。 「あなたの話は後回しだ。まずは、事件の話を聞きたい。……なぜ、こんな犯罪を犯したんだ」  言いながら私は、犯行当時の状況の捜査結果を思い返していました。  白神楓は、少年少女たちを誘惑した。少年には女の仮装、少女に対しては男の姿で。それが驚くほど美しい女性/男性だったと、目撃者は証言していました。  目の前にいる白神は、その長い睫毛の奥の紅い目で、私を見返していました。その唇には微笑みすら浮かべて。慈愛に満ちた、と形容してもいいかもしれません。  もしかしたら、世間の全ての人が絶世の美貌とは評価しないかもしれません。しかし、私が今までに出会った中では一番美しい外貌と言えましたし、その奇妙な笑みを、この取り調べの場に至って浮かべていられるその余裕、その精神性は、年端も行かない子供たちを誘惑するには十分だったと思われました。  白神はふっと、遠くを見るような、古い記憶を思い返すような目になって、色の薄いその唇を動かしました。 「ボクのことを知って欲しかったから」  そう、こともなげに。  私は苛立ちを覚えました。が、努めて冷静さを保ちつつ会話を続けます。 「それでは答えになっていない。何故三人の少年少女を誘拐し、縛り付けて殺害したのか? それを聞いているんだ」  白神は首を傾げます。そうして口にした言葉は。  ——神父様、お許しください。 「黒田さん。知っているでしょう」 「何を、かな」 「生き物を天井から吊るして、内臓を取り出す。そういうことは、普通に行われることだ」 「一体何を言っている?」 「それが人間だからだ。人が驚き恐怖し、それが罪深いと信じるのは」 「…………」  私は言葉を失い、目を見開くことしかできません。 「解体。食肉解体。そう言い換えればいい?」 「……ッふざけるな!!」  やっと私は、声を荒げることができました。  殺された少年たちは、白神によって食べられた、のでしょうか? 「ボクが食べるためじゃない。でも、あの子たちはそうだった」  そうして彼は話し始めました。彼の人生の話を。
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