石の壁の家

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「他の方法がないか、努力はしていたみたいだ。でも、何も出来なかった。他に栄養源はない、だからボクらは、お互いを食料にするしかなかった」  それからまた、白神は彼の長い話を続けます。  ボクらがそれをどう思っていたかって?  ボクらは、外の世界を知らなかった。誰も。  本当は食べてはいけない、食べたくない。だけど同時に、食べたい。腹を満たしたい。  その矛盾を解消するため、ボクらの間では信仰が形成されていった。 『他の子どもに食べられた子どもは、食べた子どもの一部になって生き続ける。そうすることで、どの子もずっと一緒に生き続けられる』、そういう信仰だ。  体調が悪かったりして、死んでしまった子はすぐに処理にかけられた。だけど、それだけで足りないこともあった。そのときには、くじ引きで誰が食べられるかを決めた。そうして決められた誰かが、あんな風にして天井から吊るされた。  その顔を見上げて、もう何も見なくなったその目を見つめて、これからも一緒に生き続けることを誓う。それがボクたちの人生であり、信仰だった。  ボクもいつかは、くじ引きで選ばれ、みんなに食べられる。その運命を受け入れることが、ボクが他の子を食べて、生きていられることの理由だった。だからボクも、その運命を受け入れていたんだ。  ボクはその運命を受け入れていた。その日までは。 「その日……とは?」  私は尋ねます。白神はふっと笑って聞き返すのでした。 「覚えていない?」 「え?」 「キミが現れるまでだよ、あの門の前に。……啓くん」  私は顔を覆いました。  石の壁の家。塀に囲まれた、雪が積もった林の中のコンクリートの洋館。  そう、私には聞き覚えがあった。この話に。  二十三年前のおぼろげな記憶を辿り、呼び起こします。  鉄格子の門の後ろに、彼——『彼女』はいたのです。
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