0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ノイズ。
雑音。
雑踏の音。
踏切の遮断機。
そして、雪の音。
「何も聴こえないの」
彼女はかじかむ手をなんとか手を動かしてそう言った。
「だから、ごめんね」
次に紡がれた手の動きはそんな謝罪だった。
たった一歩。されど一歩。
こんなとき貴女はすぐにごめんねと笑う。そうして私に明確な意図をもって線を引く。
彼女が聴こえないのは彼女のせいじゃないのに。
私と同じ音が聴こえないのも彼女のせいじゃないのに。
ああ、私は貴女にそんな顔をさせたくて手話を覚えたんじゃないの。私は貴女とふたりで思う存分いろんな話がしたかっただけなの。
泣く寸前の笑顔をみるためじゃないの。
わたしは、どうしたらよかったのだろう。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!