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 ### 「おい、トーマ」  ようやく友人の肩に手を掛けられたのは、大会議室での吊し上げが終わってから、20分以上経ってからだった。  トーマは大会議室が入っている三階の男子トイレの鏡の前にいた。洗面台に手を着き項垂(うなだ)れている。 「ああ、お疲れさん。悪かったな、ヴァン、俺のせいでお前の経歴に傷つけちゃって」  自分の問いかけに気付いたトーマは少しだけ身体を起こし、その体勢のまま振り向き、そう言った。  その顔は()き物が落ちたかのように穏やかだった。怒りや憎悪の(たぐい)は感じられない、もう何にも期待していないという諦めきった雰囲気がある。 「俺のことなんていいよ。なんであんなこと言ったんだよ?」  自分の中にある憤りを少しずつ言葉にした。  頭の中にはまた助けられた、という想いしかなかった。一年半前、トーマは被疑者を説得できなかった自分を助けようとして被疑者を射殺し、『人殺し』になった。自分のために一生(ぬぐ)うことができない烙印をその身に押したのだ。
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