44

8/11
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/715ページ
 だからこそ、自分は彼の友情に報いたい、そう思って協力した。なのに、また同じことの繰り返しになっている。トーマは自分のために一人で責任を被ったのだ。 「なんで、なんであんなこと言ったんだよ?」  彼の後ろに突っ立ったまま、同じことをまた聞いた。  トーマは余裕のある笑みを浮かべると、こちらに向き直って洗面台に軽く尻を乗せた。逡巡するかのように沈黙を守っている。 「どうして、俺のことなんか(かば)ったんだよ?」  三度目の問いかけをすると、トーマがふうと息を吐きだした。 「今回のことはそもそも俺が言いだしたことだ。結果的にはお前のことを巻き込んじまったけど、お前までむやみに責任を負う必要はない。そう思っただけだよ」  弱々しい笑顔だった。 「でも」  切ない思いで一言だけ返した。 「それに、もしここで俺とお前の二人が外されたら、誰が食品流通事情研究会やヴェイラー、それにスキナーを追いかけるんだ?」  不意に真剣な表情をしたトーマがそう語り掛けてきた。 「いいか、ヴァン」  トーマの表情が一層真剣さを帯びた。
/715ページ

最初のコメントを投稿しよう!