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机を挟んで立っているブラスポート署刑事課課長、キンバリー・フィスク警部は自分の顔をじっと見つめていた。
もうすでに四十を越えているにも関わらず、ほっそりとした手足をしている。よく話すせいなのか笑うせいなのか分からないが、口がやや大きかった。メイクは厚すぎず清潔感のある印象を与えている。
「クレイグ巡査」
その大きな口が自分の名を呼んだ。
「はい」
罰の悪さを感じながら返事をした。
「どうして、勝手な行動をしたのですか?」
矢継ぎ早に彼女が質問を放った。
押し黙った。無論、理由はある、トーマが八年前のスノーマン乳業集団食中毒事件の被害者遺族だと知ったこと、彼に負い目を感じていたこと、彼の推理に賛同できたこと。それらが自分を突き動かしたのだ。
だが、それを語るべきかどうか迷っていた。トーマの過去を勝手に語ってよいと思えなかったからだ。
――ヴァン。
後ろからロイの声がした。
大会議室での吊し上げの後、ブラスポート署に戻った自分を待っていたのは、フィスク課長による吊し上げだった。
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