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「でも分からないの。あなたもファインズ巡査部長も、こう言ってはなんだけど出世のために身勝手な行動をする人間とは思えない、少なくとも一年半、あなたを見てきた限りでは。それなのに今回に限って特捜本部に報告もせず、勝手な行動を取った」  彼女は腕を組んで視線を切ると、探りを入れるようにそう言った。 「あなた、管理官に向かって言ってたわよね? ファインズ巡査部長の推理を経済犯罪対策課(ケイハン)の人たちが聞かなかったせいだ、って。あなたはそれをファインズ巡査部長から聞かされ、怒りに駆られたってこと?」  それもあった。だが、そんな薄っぺらい理由だけではない。トーマは壮絶な人生を送ってきた、八年前の集団食中毒事件のせいで唯一の家族を奪われた。人間そのものに対する不信感を(ぬぐ)えず、社会にいる人間そのものへ憎悪を感じ始めていた。  だからこそ自分はそれを(ぬぐ)い去ってやりたかった。もう元に戻せないとしても、せめて彼が人間を真っ直ぐに見つめ、それを受け入れられるように。小さくてもこの世界には彼の信じる正義がある、そう感じてもらいたかったのだ。 「どうなの?」
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