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フィスク課長が答えを求めた。
「彼は」
逡巡を振り切れないまま、言葉を絞り出した。
「彼は、苦しんでいたんです」
どこまで言うべきか、まだ自分の中で整理はついていない。
――苦しんでいた?
自分の言葉を拾ったのはロイだった。
「どういう、こと?」
フィスク課長もロイに続いた。
「彼は」
遺族なんです、そう言いかけて言葉を飲み込んだ。少なくともトーマに許可を得ず、そんなことを語るわけにはいかない。
フィスク課長は穿った表情で自分を見つめていた。言いたいことがあるなら言え、そんな雰囲気が漂っている。
「説明してみなさい」
彼女がせっついてきた。それでも口を噤み続けた。
――ヴァン。
ノックス班長とロイが自分を促した。まだ踏ん切りはつかない。
「分かりました。下がりなさい」
フィスク課長が見切りをつけたように言い放った。
――失礼します。
「失礼します」
班長とロイに合わせるようにそう言って、パーテーションの外に出た。
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