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遺留捜査
西暦2022年12月23日の午前11時を僅かながらに過ぎた頃。
柳田悦子は、東京都千代田区霞ヶ関にある警視庁の建物内で捜査会議に出席していた。
………………柳田悦子。
彼女は、生まれ故郷が熊本県益城町の出身だったのだが、幼い頃からの家庭の事情で、現在に於いては東京都港区に位置する白金台にあるマンションで暮らしている。高等学校の卒業式を待たずに引っ越しして来た後に、本人の志望で警視庁に就職。現在に於いては、警察官としての職務を全うしながらも2児のシングルマザーとしても悪戦苦闘している。警視庁に於いて、階級は、その若さ故にも警部補。刑事部の第一捜査係の係長のポストを任されている。
如何にも敏腕刑事であるかの様に感じられている、その様な彼女の風貌なのだが、警視庁では随一のマドンナ的存在として、多くの男性職員から恋愛の虜とされているくらいであり、しかしながら、本人は、数年前に職場恋愛を経て、結婚。ところが、伴侶となった相手は、その後、事件絡みで殉職。最早、帰らぬ人となってしまっていた。それでも、左手の薬指で光り輝くダイヤモンドの指輪は外す事無く、………本人曰く。
「………単なる毒虫除けなのよネェ。」
……………………………………。。。
ところで、その事件の概要なのだが。全ての始まりは、前日の22日の未明に起きたらしい。被害者の名は、神代玲美。年齢は26歳。彼女は、山陽新幹線でキャビン・アテンダントの仕事をしていたらしい。玲美は、東京都世田谷区の町にある南烏山のマンションで一人暮らしをしていた。生まれ故郷が偶然にも熊本県益城町で、そればかりか悦子の高校時代のクラスメイトの中のひとりだったのである。玲美は、偶然にも彼女の部屋に忍び込んだとされる空き巣強盗犯によってその遺体を発見され、警察に通報されたらしい。その第一発見者の素性とは、彼女と同じマンションの隣の部屋に住む男・坂巻悦郎。年齢は26歳。職業は自称フリーター。
これも又、何かの因果関係なのか?坂巻の生まれ故郷も熊本県益城町で、玲美の高校時代のクラスメイトの中のひとりだったのである。
…………………………………。。。
「………取り敢えず、今回の件、坂巻の事情聴取を念入りにして頂戴。仮にも、空き巣強盗を働こうとした事は認めてる事実だしね。今の所、容疑者であると言う線も否めないかも知れないし。」
「……………………………。。。」
警視庁の刑事部に就任して以来、1年程が過ぎている後輩にあたる江藤茂巡査部長に対して、指示を出していた悦子。
更に、彼女は江藤に呟く。
「………それと、今回のヤマ。私は、少し距離を置こうと思ってるんだけど。」
「…………………エッ!?」
「………どうも感情的になりそうな自分を感じてるのよね。被害者の玲美は、学生時代の友人だったから。もし、被疑者の顔が割れて、真相が分かってしまったら、私、冷静でいられる自信も持てない気もするから。」
「………分かります、その気持ち。」
「………それで、………私の代わりに、現場での指揮、大丈夫かしら?………江藤君にお任せしても。」
「任せて下さい、先輩!………いえ、その、柳田係長。。。」
得意げな表情で、そう答えて見せている江藤茂の姿ではあるのだが………。
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