ホトケの阿部さん

2/22
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 あまりにその人のことを目で追い続けていたせいか、 「おい、サボってんじゃねーよ」  という上司の大声に思わず体がびくついてしまった。けれどもその声の宛先は私ではなく、私と背中合わせで後ろの席に座っている多田という同僚だった。 「サボってねースよ、ちょっと調べものしてただけスよ」 「どうせお前のことだから、エロサイトでも物色してたんだろ」 「仕事中にそんなことするわけないスよ、勘弁してくださいよ~」  学生時代に体育会系だった男特有の、「ス」をやたら連呼する話し方で、多田くんが必死に弁解する。  事あるごとにブラックジョークをパワハラ気味に連発する上司の松田課長もまた、体育会系だった男だ。  ライオンの子供のじゃれ合いみたいな応報に、私は未だに慣れることができない。  我関せずと仕事に戻ろうとしたが、二人の会話から「阿部」という名前が出てきたので、私は再び仕事をしているフリをして聞き耳を立てた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!