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あまりにその人のことを目で追い続けていたせいか、
「おい、サボってんじゃねーよ」
という上司の大声に思わず体がびくついてしまった。けれどもその声の宛先は私ではなく、私と背中合わせで後ろの席に座っている多田という同僚だった。
「サボってねースよ、ちょっと調べものしてただけスよ」
「どうせお前のことだから、エロサイトでも物色してたんだろ」
「仕事中にそんなことするわけないスよ、勘弁してくださいよ~」
学生時代に体育会系だった男特有の、「ス」をやたら連呼する話し方で、多田くんが必死に弁解する。
事あるごとにブラックジョークをパワハラ気味に連発する上司の松田課長もまた、体育会系だった男だ。
ライオンの子供のじゃれ合いみたいな応報に、私は未だに慣れることができない。
我関せずと仕事に戻ろうとしたが、二人の会話から「阿部」という名前が出てきたので、私は再び仕事をしているフリをして聞き耳を立てた。
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