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終業のメロディが鳴ると、一人、また一人とオフィスから人が消え、最後に残ったのは阿部さん、多田くん、そして私を含めた数人となった。
多田くんは以前なら「定時になるといつの間にかいなくなっている要員」だったのだが、元カノにフラれてからというもの残業時間がわかりやすく増えていた。寂しいのだろう、時々私にちょっかいをかけてくるが、今日の私は阿部さんのことで頭がいっぱいだ。
急ぎではない仕事を進めながら目の端で阿部さんの動きをチェックしていると、阿部さんがマイカップを洗いに洗面室に向かった。阿部さんが帰宅するサインだ。
常に誰よりも遅くまで残業している阿部さんが、どういうわけかここ数週間は早めに退社する日が何度かあった。
阿部さんを追いかけるように慌てて帰り支度を済ませる。
阿部さんの乗ったエレベーターの隣のエレベーターが絶妙な間で空いた。「誰かの後を尾ける」、私の人生でそんなことをする日が来るなんて。しかもその相手は浮気疑惑のある恋人でもなければ、恋焦がれてたまらない元彼でもない。
阿部さんは本当にただの同僚に過ぎないというのに。
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