ホトケの阿部さん

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 彼女は以前、私が阿部さんを見かけたとき、確かに阿部さんと一緒にいた女性だった。  気の強そうなやや濃いめの眉にくっきりとした二重瞼、そして通った鼻筋。真っ赤な口紅が自分の容姿への自信を表しているようにも見える。ピラミッドで言えば三角形の頂上付近に君臨するくらいの美貌の持ち主だ。その証拠に通り過ぎる人たちが何人もその女性を振り返っていた。  ……ただ一点だけ難癖をつけるとしたら、その女性は阿部さんよりも一回りほど年上であるように見えることくらいか。  並んで歩き出した二人を見失うまいと、私は慌てて改札を出ようとした。そのとき、ふいに肩を強く掴まれた。 「こんなところで何やってんの?」  ニヤニヤしながらそいつは言った。 「多田くん……」 「あれって阿部さん? 何で阿部さんを尾けてんの?」  不覚だった。  阿部さんを尾けている私を、多田くんが尾けていたなんて。  阿部さんの動向にすっかり気を取られていたことに臍を噛んだ。
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