ホトケの阿部さん

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「ホトケの阿部さん」  その人のそんな呼び名は、その人の所属部署のみならず、その人とは関係のない部署にまで広く浸透している。  「ホトケのナントカさん」と言えば、仏さまのように温厚で慈悲深い人を意味するけれど、多分に漏れずその人もまた、お釈迦様のような佇まいを醸し出している。  その人の部署の新入社員がとんでもないミスをしたときもそうだ。静かなブーイングが漂う中、嫌な顔一つせずに穏やかにフォローしていたのがその人だった。  誰かが残業を代わってほしいときや、業務が過剰になったときもそう。ヘルプとして、真っ先に白羽の矢が立つのがその人だった。  そんなわけでその人は誰よりも早く出勤し、誰よりも遅くまで残業するというのが常だった。
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