おとぎ戦士チルドレン

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~・~  赤ずきんが現場に辿り着くと、人々の非難は既に済んでおり、ピーターは駅から少し離れたバスロータリーまで魔物を誘導し戦っている。建物の四階近くまである黒くてでかい靄のような魔物に向かって、ピーターはインディアンの弓矢で遠距離攻撃を繰り広げていた。  矢尻が黒い靄に当たるたび、靄は少しずつ四散してどんどん小さくなっていく。 「今回の魔物は質量が少ないタイプか…」  魔物の強さは人の負の感情の深さによって変わる。自分一人ではどうにもならないくらい辛い思いをした人ほど、負の感情の質量が多く倒すことが難しくなり、逆に小さな嫌なことが積み重なった場合は、負の感情の質量は少なく比較的簡単に倒すことができるようになるが、代わりに鬱憤を晴らすための黒い靄が多くなり近付き難くなるのだ。  魔物を倒す方法は、その黒い靄を発している負の感情に飲み込まれた人間の中にある核を破壊すること。おとぎ戦士の武器によっては人の身体ごと核を突き刺しても、人間に害が及ばないものもいるが、大抵のおとぎ戦士の武器にそのような機能は存在しない。  核を人間の体から引き摺り出すには、おとぎ戦士が腕に着けているリングが必要不可欠だ。リングを着けていれば、人体をすり抜け負の感情の根源である核に直接触れることができる。  核を掴んだらそのまま核を引き摺り出して、おとぎ戦士の専用の武器で破壊すのだが、その時に負の感情である黒い靄に触れてはいけない。  黒い靄に触れてしまうと、自分の中にある負の感情が共鳴してしまい、おとぎ戦士自身も負の感情に飲まれて魔物と化してしまうからだ。  また、おとぎ戦士が負の感情に飲まれてた場合、負の感情の根源である核が身体の中に存在しないため、腕のリングを破壊しなければならない。  リングの破壊とは、己の命を絶つ行為に等しいため、おとぎ戦士は黒い霧に触れないように魔物を討伐しなければいけないことが最重要事項である。  数メートル離れた場所から、ピーターと魔物の戦っている姿を見ていると、今回の敵は自分が最も苦手とする相手というのが分かる。 「表面タイプ。……どうやって攻めればいいんだろう」  表面タイプの魔物は、負の感情に質量がないため、裁ち鋏で切り裂いてもあまり意味がない。むしろ霧状に広がられでもしたら、負の感情があかずきんの体内に入り込み、たちまち自分自身の体内にも負の感情が蓄積されて、新たな魔物と化してしまう。  ピーターと初めて出会った時、初戦で何も知らない赤ずきんが表面タイプの魔物に突っ込み、あっという間に負の感情に呑み込まれかけてしまった。  そのまま見捨ててもよかったものを、ピーターは赤ずきんを助けてくれた。   さらには魔物のことを彼の知っている知識の範囲で教えてくれたあと、その魔物を一緒に倒してくれた。だから一応は命の恩人ではある。 (あのいけ好かない性格でなければ、格好いいのにね)  まさに残念大将だ。  それはともかく、表面タイプの魔物には直接攻撃は向かない。ピーターのように自分の特技を生かして、空を飛びながら遠距離の弓矢でじわじわと負の感情を払うのが得策だろう。 (けど、そんなちんたらちんたら攻撃したくない!)  まりえに言ったのだ。すぐに行くと。あまり時間を掛けることはしたくない。だがむやみに突っ込めば昔の二の舞だ。 「どうする、どうする……」  茜は無意識にリングに触れていた。自分を変身させてくれる相棒に、助言を貰いたい。そんな気持ちで軽く触れただけだったがーーー。 『モードチェンジをしますか?』  機械音が脳裏に響く。 「モードチェンジ?」 『身体の一部、装備、の一カ所のみモードチェンジ可能です。負の感情の回収率により、チェンジ部分や装備などの変更が多く認められます』 「ようするに、今は一部分のみの変更が大丈夫ってこと?」 『はい、その通りです』  なるほど、だからピーターは武器を使い分けることができたのか。自分よりもたくさん戦って、負の感情を回収しているから。  赤ずきんは口端を上げてリングに伝えた。 「遠距離で攻撃できる武器にチェンジで!」  リングは応えた。
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