妻の告白

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 展望所へは5分もかからずにたどり着いた。こんなに近かったっけ?それが素直な感想だった。  私たちは車を降りて、夜景が一望できる場所まで歩いた。展望所まで続く一本道には、街灯が3本あるだけで薄暗かった。  展望所の端に着き、私は柵に手をかけて街を見下ろした。ビルや住宅の小さな光が散りばめられ、夜景を作っていた。  国道には何台もの車が連なり、その先には信号機が見える。視線を先に伸ばすと、真っ黒な海が見え、光をわずかに反射しながら揺らめいていた。  30年前、ここで彼女に告白した。あまりの緊張で細かなことは覚えていないが、ここに立つと少しだけ緊張している自分がいた。  どうやら身体は覚えているようだ。  30年前の記憶を。  妻も静かに夜景を見ていた。その横顔を見ると、更に緊張している自分がいた。30年前の感情が、自然に甦ってくるのがわかった。 「実はね、もう1つ、言わなきゃいけないことがあってね」  彼女は視線を夜景に向けたまま、私に言った。  もう1つ?いったい何だろう?
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