それぞれの岐路

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 今から30年ほど前。  先に惚れたのは、たぶん私の方だった。  2つ下の後輩でウチの職場に入ってきた彼女。たまたま職場での席が隣同士になり、私がいろいろと教えてあげた。  はじめは全く意識してなかった。後輩だからという純粋な理由で、当然のように仕事のいろはを彼女に伝えていた。ひとめ惚れでもなんでもない。 「ありがとうございます」  彼女は何度も俺にそう言った。当たり前のことをしているだけで、ありがとうと言われる。それもとびきりの笑顔で。  彼女が入社して1年が過ぎる頃になると、大抵のことは1人でこなせるようになった。  仕事の話だけでなく、プライベートに踏み入った話もするようになり、私は彼女と過ごす時間が、自分の中でも重要な位置を占めていることに気が付いた。  私は彼女を夕食に誘った。  自分の気持ちを抑えられなくなっていた。  夜景の見えるレストランで食事をし、その後、さらに丘を上って展望所から夜景を見た。喜ぶ彼女と一緒にいるのが、たまらなく嬉しかった。  そこで告白。  私たちは付き合うようになった。  3年間の交際を経て、めでたく結婚。  それを機に、彼女は会社を辞めた。
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