それぞれの岐路

1/7
前へ
/15ページ
次へ

それぞれの岐路

「じゃ、行ってきます」  息子はそう言って、重たいスポーツバックを肩にからって新幹線に乗り込んだ。  シューっという乾いた音と共に、扉は閉まった。そして、私たちと彼との間を遮断した。  息子はこちらを見向きもせず、自分の座席へと向かっていた。妻はその姿を追いかけ、窓越しに彼の姿を見守った。  スポーツバックを荷台に上げ、彼は自分の席に腰を下ろした。そして窓の外にいる妻に軽く手を上げた。  妻もその姿を確認すると、右手を小さく降った。彼女の手が下りるのを確認するかのように、新幹線はゆっくりと、次の目的地に向かって発車した。  彼は行ってしまった。  残された妻と私は、しばらく新幹線の行く末を見守った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加