繋がる落書き

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 ある日、いつものようにトイレへ入ってお弁当を食べようとしたとき、便器の前に何かが書かれているのを見つけた。  それは前日、わたしが描いた落書きだった。そうだ、昨日はギリギリまで残り過ぎて遅刻しそうになったから慌ててトイレから出たのだ。  落書きを消し忘れていたのかもしれない。  もし先生に見つかって、注意なんかされてしまうとわたしの唯一の居場所がなくなってしまう。それだけは避けなければいけない。  自分の行いを戒めて、昨日の落書きを消そうと消しゴムを取り出した。  しかし、壁をよく見るとそこには、わたしが描いた猫の落書きの他に知らない絵が描き足されているのを見つけた。  猫の絵の横に右の矢印があって、その隣にコアラの可愛らしい絵が描かれている。  誰かが描いたんだ。それは一瞬でわかった。  トイレ掃除をした人物なのか、それとも全く関係のない人がたまたま入ったこの個室で落書きを見つけて絵を描いたのか、理由はわからないがわたしはそれを見て涙が出そうになった。  わたしの絵に反応をしてくれた人がいる。  猫、矢印、コアラ。つまり、しりとりだ。  わたしはお弁当を食べることも忘れて、頭文字が「ラ」のものを考えた。  ラッコ、ランチ、ライス、ラック、ラクダ、ラジオ。  描きやすくて続きそうなものだと、ラクダかな。ラッコでもいいんだけど、ラッコってどうやって描けばいいのかわからない。  うまく伝わりやすいのはやっぱりラクダだろう。  わたしはイメージを形に変えて、ラクダを描いた。矢印も忘れずに。  でも、「ダ」で終わると次が描きにくいかな。「ダ」って何があるだろう。  ダンス、旦那、ダーツ、団子、男子、だるま、ダックスフンドとか、ダルメシアンとか、まあ色々あるか。なんてことを無駄に考えていると楽しくなった。  忘れかけていた、人との交流。  高校へ入ってからは日和とのメールも少なくなっていた。  あの子にはあの子の友だちがいるはず。  海外で不安はあるかもしれないけど、日和は誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力があるから。いつまでも彼女に甘えているわけにはいかない。そんな意地みたいなものだけはあった。
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