繋がる落書き

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 お弁当はいつも通り、あまり味がしなかった。冷たいご飯に唐揚げと卵焼き。  そもそも、それほど食欲もない。出来ることなら半分以上残してしまいたい。  でも、そんなことをするとお母さんは悲しむだろう。  高校へ入ってひと月が経過した。  相変わらず、友だちは一人もいない。  トイレの個室に入り、狭くて静かなこの場所でお昼を過ごすのが日課だった。  北館の三階のトイレは誰も使用することのない場所で、人は滅多に来ない。特にこの時間にここを利用するのはわたしぐらいだ。  無理矢理ご飯をかき込んで胃の中へ詰め込む。食べ過ぎると気持ちが悪くなって、食べたばかりなのに吐きそうになる。あ、そうか。ここはトイレなんだから、いくらでも吐けるのか、とかどうでもいいことを考えたわたしは、食べ終わった弁当箱をしまうと鞄からシャーペンを取り出した。  座っている便座から少し手を伸ばす。そして前の壁に落書きをする。猫の絵だ。うちで飼っている猫のダイキ。人間みたいに仰向けで寝ている姿をよく見る。それが可愛くて、何枚も写真に撮ってしまう。  仰向けで眠るダイキをイメージして落書きをした。最終的には全部消しゴムで消してしまうのだけれど、何かを描いているときだけは幸せだった。嫌なことも苦しいことも、全部忘れられるから。  お昼休みが終わってしまうと、またあの苦痛の時間が始まる。女子が多く集まる教室。  手を叩いて笑う女子や、スマホを向けて写真を撮る人もいる。みんなうるさいぐらいに騒いでいて、自分の席に座るわたしだけがそれに取り残されているような気がした。  たった一ヶ月しか経っていないのに、みんなはどうやって仲良くなったのだろうか。  友だちってどうやったら出来るのか。  中学までは日和(ひより)がいた。  彼女がいたから、孤独を感じなかった。  でも、ここに日和はいない。  中学からの同級生は何人か同じ高校へ進学したのだけれど、その人たちとは話したこともないし、そもそもキャラが違う。立場が違う。  人とうまく話すことが出来ないわたしは、日和がいなければ結局一人。  
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