第五話 存在を忘れてました、当て馬くん

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 つかんだ毛布に顔をよせ、凛々しい眉が動いた。  なんだこいつは。卒業式で見納めだと思っていたのに、勝手にきて匂いを嗅ぐなんて変態か。 「おい、さっきまでここにアルファがいただろ」 「いたよ」  トリスタンが顔を上げ、怒った表情を見せた。  さっきまで父上がいた。  それ以外は食事を運んでくる執事のエドウィンだけだ。 「だれだよ?」 「さあな。アルファで、男とだけはいっておく」 「は?」  トリスタンは凛々しい眉根をよせて、くんくんと手にした毛布の匂いを嗅いだ。 「……バカ、父だよ」 「なんだ、このアルファの匂いは親か。あぶねぇ~、殺意がわくところだった」 「父に殺されるぞ、おまえが」  おれは上体を起こしてやれやれと背伸びをした。  寝すぎて腰がいたい。肩を上下に動かしてストレッチをして、ほどよく肩がほぐれたとき、あることに気づいてしまった。おれは奴の顔をまじまじと眺めた。    どうしてこいつがここにいるんだ。  同じように、トリスタンはきょとんとした面持ちで見つめ返す。 「なに? 惚れた?」 「ちがう。それは断じてない。トリスタン、おまえこそどうしてここにいるんだ。士官学校を卒業したら騎士になるんじゃないのか。もう入隊式がはじまる時期だろう……。おまえ、まさか入団テストの筆記試験に落ちたってことは……」  士官学校を卒業後、トリスタンは魔法騎士団に入隊して副隊長になる。  おれが断罪ルートを回避したからか、齟齬がみえ始めているのか……。バグじゃないことだけを祈る。 「ちがうっつうの! 残念、オレは進路をかえて大学に進むことにしたんだ」 「大学に?」 「そうだ。だから、新学期まで休みだっつうの。おまえだってヒマなんだから進学したらどうだ? まだ後期試験があるんだし受けろよ」
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