夜の風と草木深し

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 クピトはその様子を屋根の上から眺めていた。そしてどうしようかと考えあぐねていた。  クピトは自らの目的を再確認する。クピトはあの凛という女と広道という男を添い遂げさせようと思っているのだ。そして目の下にいる伊予という女は広道の妹らしく、みな同じこの建物に住んでいるらしい。そうして再び矢を番えた。そして今度こそ()てようと、狙いを絞って放つ。 「あっ」  けれどもその瞬間、再び強い風が吹き、再び矢が逸れたのだ。 「はぁ。なんだか私も熱が出てきたように思います」 「伊予もよく寝たほうがいい」 「風邪っぴきの兄さんに医院を徘徊させるわけにはいきません! これだけは私の役目です! 兄さんを野放しにはさせませんからね!」 「怒らなくてもいいじゃないか」  クピトがオタオタしているのを影からニヤニヤと見ているものがいた。常城神社の主神、少彦名命(すくなひこなのみこと)だ。この少彦名は極めて小さな神だ。だから様子を見に行くというクピトの羽に潜んでついていくことなど造作もない。  けれども少彦名はその薬草園に目を見張っていた。  薬草園は二つの区画にわかれていた。整然とした区画と雑然とした区画だ。目を見張ったのは雑然とした区画のほうだ。そこには雑然というよりは渾然一体と、さまざまな癖の強い、本来同じ畑に植えることができない類の草木までがその生命力を発露させて同居していたのだ。中には神威すら感じるものすらある。神というものは我の強いもので、本来その眷属たる草木が仲良くするはずがない。  なのに今も、この凜という女は常城神社から抜いてきた少彦名の神気を帯びた草木を、絶妙な配置で植え付けていく。少彦名には凛はあたかも巫女か何かのように思われた。  そして少彦名は整然とした方の畑を見た。ここは医院らしい。雑然とした区画で生える草木の作用は、個別性が強いだろう。医薬として用いるには、安定して予測しやすい作用をもたらす管理された畑で栽培するというのが理にかなっているように思われる。  少彦名は医薬と穀物、知識と呪いの神である。だからそのご利益でも与えようと、簡単な加護を与えることにした。そして満足して神社に帰ってしまった。
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