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音の無い怪物
静かに吐き出した息が、ふわりと白く形を成して空気に溶けていく。
どれだけ着込んでも凌ぐことのできない寒さに、肌が痛むのを感じる。まだ日が高い時間帯であるとはいえ、体感温度はさほど変わらない。
できるだけ身体を縮こまらせてみるものの、その程度で暖かさを感じることはなかった。
目の前には大きな暖炉があって、そこにくべるための薪や着火剤代わりの紙屑、マッチも置かれている。すぐにでも火を点けて身体を温めたい、熱々のスープが飲みたい。
けれど、私たちは生きるためにそれを我慢しなければならなかった。
「……おねーちゃん」
「シッ、喋ったらダメ」
隣から聞こえるか細い声を、私はすぐさま咎める。朝から声を出していなかったので掠れてしまったけれど、それだけでヒナは大人しく口を閉ざした。
可哀想だとは思う。寒いのだろうし、お腹だって空いているはずだ。少しでも暖かさを錯覚できるように、毛布を羽織る身体をこれ以上ないほどに寄せ合う。
山吹色のカーテンの隙間から見える外の景色は真っ白で、ちらちらと雪が舞い降りているのがわかる。幻想的で綺麗だと思うのに、私にとっては何よりも疎ましい。
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