音の無い怪物

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 だから私たちは、雪の降る日は極力音を立てないようにしてやり過ごしている。  テレビやスマホ、音の鳴るものは両親がすべて捨てた。もとより、電気が通っていないのだから、それらは持っていても意味を成さないのだけど。  何かを学ぶための手段は、始めから家の中にあった本だけ。幸いにもお父さんが読書家だったことや、物持ちの良さで本の数だけは多かった。  それでも、勉強なんかしてもこの先役に立つのかはわからない。この状況で必要なのは、今を生き抜くための知恵と知識だ。  私はもう12歳になるが、まだ7歳になったばかりのヒナはじっとしているのもつらいのだろう。コートを着る私の肘の辺りを引っ張ると、小さな口をぱかりと開ける。 『おなかすいた』  声を出さずに続けてきた生活の中で、ある程度の言葉であれば口の動きで読めるようになっていた。難しい言葉を読み取ることはできないけれど、ヒナとの会話ならこれで十分だ。 『わたしも、おなかすいたよ』 『パン、まだのこってる?』 『さいごのパン、きのうヒナがたべたでしょ』  予想はできていたけれど、やはり空腹が限界なのだろう。
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