出会い系サイトで

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出会い系サイトで

 もう付き合い始めてから何年だろう。  最初は二人とも既婚者同士だった。  そして、大概の皆様の期待を裏切るかもしれないがメールだけのお付き合いだった。  二人ともが現実の生活に傷ついて、ただ、自分とは関係のない人に自分の心の内を話したいだけだったのだ。  最初は冴子がヤ〇ーメールで自分の悩みを相談できるような人がいないかとメールサイトにメールを出したことから始まった。  冴子は世間に疎く、そういったメールサイトが出会い系サイトと呼ばれていることも知らなかった。  そして、『メールでお話できる方、もしお近くだったら会ってお話しできる方を探しています。』といった内容でメールを出した。  メールを出した後、夕ご飯の用意をして、先程出したメールの返事を覗いたところ異常な数の返信があり、驚いて珍しく早く帰ってきていたに相談したところ、 「何がしたかったの?」 「馬鹿じゃないの?」 「こういうのは出会い系って言って不特定多数の人が見ていていろいろ想像して送ってくるんだよ。」  そもそも、夫が全く普段の生活の話も子育ての話も聞いてくれないから、色々と話せる友達が欲しかっただけだったのに。冴子は驚いて、自分のメールを非表示にした。  そして、3時間のうちに来た200通以上のメールの中から、ちゃんと話ができそうな人を10人ほど選んでメールの返信をした。見事に全部男性だった。女性は誰も返信してくれなかった。  しかし、まともな返事が返ってきたのは5人ほど。そのうちの1人は中学生。中学生とは2~3通他愛もない話をしているうちに向こうから返事が来なくなった。  残った男性4人は一人を除いて近々会いたいと言う人だった。  冴子の中では一線を越えなければ悩みを話すくらいは良いのでは?という甘い考えが残っていた。  一人だけは相手も妻帯者であり、自分もいろいろ悩んでいるしメールで話ができれば嬉しいという事だったので、2~3日に一通程度の頻度でメールのやり取りをしていた。  冴子が他の3人の男性が話を聞くなら外で会いたいと言うので、外で会って話をしてくるとメールだけの男性に相談すると、 『必ず人が多い場所で会う事』 『会っている時間は1時間程度にする事』 など、危険回避の方法を教えてくれた。  子供にはお母さんは少し友達と会ってくると言って21時までには帰るからと留守番を頼んで出かけていた。夫はそんな時間には帰宅しない。  一人目とは新宿のチェーン店のレストランで会った。  なんだか、私の悩みを聞いてくれると言うよりは自分の趣味の音楽をMD(そう、まだそんな時代でした)に落としてきてプレゼントしてくれた。  そして、自分が聞いていたイヤホンを片方はずし 「ほら、聞いてみて。」  と鼻息も荒くイヤホンを差し出された。人の耳に入っていたものなんて余程親しくないと自分の耳には入れたくないので、手で隠して耳に入れたふりをしていたら 「入れてないでしょ。ほら、手を放してちゃんと耳に入れて。」  と、あっさりバレて、気持ち悪い思いをしたのでコーヒーを飲んだ後、もう帰りますと言って二度と会わなかった。  二人目とは渋谷で昼間会った。  つい先日閉店した、渋谷の東急百貨店本店にある豪華でおしゃれなお店。  いかにも女性が好きそうな喫茶店に連れていかれた。  私はあまりそういったフリフリが好きではなかったのであいにくだった。  そして、その男性は自分でもメールでスナフキンに似ているんだと言っていた通り、実際の見た目も小柄でアニメのスナフキンにそっくりで怖かった。  あれはアニメだから良いのだし、スナフキンは女性を無理に喜ばせようとしたり、自分の仕事の自慢話などはしないから良いのだ。  その男性は自分の自慢話を一時間して、やはり、冴子の悩みを聞いてくれそうにないのでそのままお別れした。  三人目の男性とはバイクで出かけたいと言われ、この時は冴子も先にあった男性二人と会って、特に何事も起こらなかったので気が緩んだのか、人が沢山いるところでという注意を忘れ、バイクに乗ってしまった。  横浜方面に行ったのは良かったのだが、横須賀まで足を延ばそうとした時に、帰りに車が渋滞しているのに気づき、急いで引き返したが、帰宅時間がずいぶん遅くなってしまった。子供には21時には帰るからと言ってあったのに家の近くについた時には23時近くになっていた。  夫はまだ帰ってはいなかった。  もう、自分に腹が立って、その人とも二度と会わなかった。
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