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メールの彼と
結局、続いたのはメールのみでやり取りしていた人だった。
メールのみのお付き合いが2年ほど続いた頃、一度会って話をしようという話が出た。
最初会った時は目つきが悪くて怖そうな人だと思ったが、大勢いる飲み屋さんで話をすると予想外に楽しかった。
冴子はその頃にはもう夫と離婚していた。離婚の際、子供は夫が親権をとった。冴子はうつ病になっていたので生活が不安定だったのだ。
でも、相手は妻帯者であるのでこれも信じていただかなくても構わないが一線は越えなかった。
それから時々外で会うようになったり、冴子が一人でいるアパートでご飯を食べたりした。
彼はいつも車だったのでお酒を飲むことはなかった。
そのうち、彼の家の奥さんが、その彼との子供があまりにも破天荒な子供ばかりだったのでそれが嫌だと出て行ってしまったと聞いた。そして、彼の方も離婚に至った。
その後は一線を越えたお付き合いもしていたが、結婚という話は出なかった。
二人とも結婚には疲れていたのだと思う。それによく聞くと、彼の方は離婚する意思はあってもまだ離婚届が出ていなかったのだ。
冴子は困惑した。不倫しちゃったってこと?これはこまった。
でも、彼と別れると言う選択はもう冴子の中にはなかった。
色々なことを一緒にした。楽しい時間ばかりだった。離婚した夫とは味わったことの無い幸せな時間だった。
このまま続くのだろうか。冴子はいつも不安だった。
そして、そうこうしているうちに彼の離婚が成立した。
特に揉めるようなこともなかったらしく、奥さんが出て言った後、奥様が忙しくて、離婚届を出すまでに時間がかかっただけの様だった。
冴子はそういう所は深く追求しない。勿論彼の事は気になるが、夫婦の事は冴子の預かり知らぬ出来事なのだから。
「結婚しようか。」
彼に告白された。
メールのやり取りで付き合い始めてから15年以上が立っていた。
最初の頃こそメールだけだったし、途中も時々会うだけだったのに、お互いに悩みを打ち明けあっているうちに、お互いが一番の理解者になっていたのだろうか。
冴子は自分がそんな人になっているかの自信がなかったが、きっと二人はいつの間にかお互いにかけがえのない人になっていたのだ。
冴子の返事は
「うん。いいの?私と何て結婚しちゃって?」
彼はそっと冴子にキスをした。
それが3年前。
今は冴子と彼と猫二匹。亀一匹。金魚二匹で楽しく暮らしている。
【了】
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