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 エントランスを出て人気のない場所で立ち止まる。    私用のスマートフォンから彼女に訊いた番号に掛けて、待ち合わせた喫茶店。 「机の上に赤いカバーの本を置いておくから」  それを目印に美和子を見つけ、彼女に断って二人掛けのテーブルの前の席に腰を下ろす。 「わ、私、……今野さんがご結婚されてるなんて知らなかったんです! 本当に、あの」  何よりもまずこれだけは伝えなければ、と『恋人』の妻に切り出した沙英に、美和子は薄らと笑みを浮かべて頷いた。 「大丈夫。メッセージ見たからわかってます」 「メッセージ、……ご覧になったんですか?」 「ええ。あいつ、指紋ロック掛けてるから、寝てる間に指当てて解除してやったの」  の甘く他愛無い会話。他人に見られることなど想定もしていなかった。露骨な表現などはなかったはずだが、何ともいたたまれない。 「野村さんは宗史がフリーだって前提で話してたし、あいつははっきり『独身だ』って言ってる。疑う余地ないわね。あなたは『騙された』被害者よ」 「あの、わかっていただけて、あ、ありがとうございます」  こういう場で口にすべきことなど沙英にはわからない。  とりあえず、信じてもらえたことに安堵して礼を述べた。
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