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【4】
《沙英ちゃん、ちょっと遅れるかもだけどもうすぐ着くからね〜。》
待ち合わせたカフェで席についていた沙英に、脳天気な『不倫男』からのメッセージが届く。
「もう来ますね」
前を向いて座ったまま独り言のように呟いて、ディスプレイを肩越しに背後に向けた。
背中合わせのソファに座る美和子に見せるために。
人を騙して傷つけるということの因果を、宗史に思い知らせる。沙英の正面に座った瞬間、彼は己が裏切った二人に『騙された』と理解するのだ。
……それが、終わりの始まり。
そのために素知らぬ振りで会う約束をして呼び出した。美和子の気遣いで、弁護士立ち会いのもとで送ったメッセージで。
「私は別に、お金なんかどうでもいいの。私も働いてるし、言っちゃなんだけど宗史より収入も上だしね。その分忙しくて、あいつに遊ぶ隙与えちゃったんだけど。ただあいつを苦しめたいだけ。支払いが滞ったら、即給料差し押さえるわ」
皮肉っぽく口の片端を吊り上げながら、一つ一つ宗史を追い込む計画を並べていく彼女。
その姿に感じたのは、恐ろしさではなく頼もしさだった。
沙英に対して、たとえ「知らなかった」とはいえ美和子は一切嫌悪の表情さえ見せることもなかった。
今日のための打ち合わせの場でも、終始冷静さを保っていた彼女。本当に強い人だ、と感心する。
宗史と美和子。どちらの側に付きたいかなど考慮の余地もなかった。
入口ドアが開いて、姿を現したのは待ち人だ。
──さあ、終焉へのカウントダウンを始めましょうか? 5、4、3……
~END~
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