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「いえ、私はそんな。そんな資格ないです」  既婚者だと知って確かに傷ついた。許せないと思った。  しかし、目の前の彼女にとっては、自分はやはり単なる被害者ではないと感じてしまう。 「『独身だって嘘ついて騙された。知らないうちに不倫の片棒担がされてショックを受けた』って証言して。あなたのことは私が守る。……って言っても信用できないだろうから、これあげるわ」  美和子がテーブルの上を滑らせて寄越した、掌に握り込めるほどの黒く細長い機器。先端の赤いランプが点灯している。 「何ですか?」 「ICレコーダー。今のやり取りが入ってる」 「レコーダー、……これが」  存在自体は知っていたが、これほど小さなものなのだ、と驚きが隠せなかった。 「それでも不安なら一筆書いてもいいわよ。私、これから弁護士事務所行くんだけど一緒に来る?」  彼女が重ねた言葉を、思わず両手を振って否定する。 「いえ! そこまでは。奥様のこと信じます。もし、……もし『何か』あっても私が甘かったんですから」 「なんていうか、いい子ねぇ。あいつほんとに許せない。こんな純な子に」  責められないからこそ、かえって辛かった。悲劇のヒロインになりきるほど幼くもない。  ──ただ、苦しくて哀しかった。
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