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「今野さんて、なんというかあたしたちとまだ入ったばかりの人に対する態度がこう、……微妙に違いますよね?」  沙英より五歳年上の加藤(かとう) 千嘉(ちか)が、宗史が課室を去ったのを確かめて小声で話し出した。  おそらくは沙英が室内に見当たらなかったからではないか。今日のアポイントを知って、入り口のカウンターからは死角になる複合機で作業をしていたのだ。もちろん彼の目に留まらないよう、故意に。  今はどうしても会いたくなかった。今は。 「そりゃそうでしょ。『若くて素直な可愛い子』しかお呼びじゃないのよ、ああいう男は。だって内容のなさが透けて見えちゃうじゃない? 加藤さんはまだしも、三十過ぎたわたしみたいな女には」  言葉を濁す後輩の気遣いなど無視し、包んだオブラートを破り捨てる勢いで広美が辛辣な言葉を並べる。  少なくとも職場で噂話などしない、当然陰口を叩いたりもしない彼女が珍しく饒舌になっているのも宗史に対する嫌悪が強いからだろうか。  そういえば、広美は最初から宗史を見る目が厳しかった。わざわざ忠告までしてくれた先輩の話に耳を傾けなかったのは沙英自身だ。信じる相手を間違えた己のミスを悔やんでも、もう遅い。 「あー、わかります。あたしの他の課の同期にも評判よくないんですよね、今野さん。表面上は取り繕って態度悪いってわけじゃないんだけど……」  どうやら広美や千嘉に限らず女性社員は、宗史にはあまりいい印象は持っていなかったらしいと今にして気づいた。
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