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日が暮れた。
身支度を済ませたわたしを、あの中年男の妻が呼びに来る。
母屋の広い座敷に連れていかれた。
賑やかな声が、漏れ聞こえてくる。
宴はもう始まっているのだろう。
上座にはすでに、盃を手にした村長の姿があった。
すぐさま、その横に座らされる。
初めての顔合わせだというのに、正面から挨拶をさせてもらう間もなかった。
「嫁御どの、遠いところをよくよく来てくれた」
ふわり、優しく低い声。
うつむいて座していたわたしは、急ぎ、おもてを上げる。
おそらく、その直前までわたしを見つめていたのであろう村長は、ちいさく微笑むとすぐに、すっと顔をそらした。
その後は、酌にきては話し込む村の男が後を絶たなかったから、わたしは旦那さまの横顔を、チラチラと伺うほかはなかった。
思っていたより、若い。
村の「長」とだけ聞いていたから、それなりに歳のいったひとだと考えていたのだ。
歯並びの良いくちもと、上背もありそうで、肩は逞しい。
とても「いいおとこぶり」だと。正直、そう思った。
うれしかった。
「丈夫だけが取り柄」とまではいかないが、百姓出の自分に「むらおさの妻」など務まるのか不安で仕方なかったから。
こんなにやさしげで、見目よく頼りになる旦那様に嫁ぐのだとわかり、ホッとした。
そうはいっても、わたしだって器量の方は「まあまあ」のはず。
からだつきも、そう悪くはないし、野良仕事のわりには「もち肌」だ。
よく仕えて働いて、「可愛がって」もらい、旦那さまの子をたくさん産もう。
目の前には立派なおかずが並べられていた。
うちの村での宴のものより、品数もずっと多い。
これがほんとうの「祝言の膳」だと言われても納得できるくらいに。
でも、今宵は「単なる酒盛り」だと、そう言われている。
たしかに、場に「堅苦しさ」はない。
長へと酌にやってくる男たちは、隣に座るわたしには、まるで話しかけてこない。
けれども、ぶしつけではない静かな微笑みを向けてくれて、村のひとびとは、ほんとうに感じがよかった。
男たちは酒を飲み、くつろいでいる。
おんなたちは、おかずや飲み物の差配に立ち回っていた。
もちろん、その合間合間には、裏のかまど周りでつまみ食いをしたり、他愛ないうわさ話に興じたりと、楽しんでいるにちがいない。
ただわたしだけが、宴のなかで所在なく座っていた。
ふと、腿上にほのかな温かさを感じる。
旦那さまの掌だった。
衣の上から、わたしの太腿を、ゆっくりと撫で始める。
驚いた。
どうしたものだろう?
酒の席で、男がそんな気味の悪い真似をしようものなら、脛でも蹴り上げてやるところだ。
けれども、このひとは「ふつうの男」ではなくて、わたしの良人になるひとだ。
それに、なぜだか不思議と、わたしは「それ」が、「そのぬくもり」がイヤではなかった。
気づけば、むらおさの手は内へと入りこんで、わたしの肌へとじかに触れている。
誰もみな、相当に酔いが回っているとはいえ、周囲には大勢がいた。
さすがに恥ずかしさがこみ上げる。
耳たぶと、そして身体が熱くなった。
旦那さまの指が、脚の付け根へと近づいてきた。
時に遠ざかり、外腿へとそれては、また、股の間へと滑り寄る。
他の村に嫁ぐ身として、「てほどき」は、しっかりと受けてきた。
閨で「どういうこと」がされるのか。
最初から最後まで、「色々」の後も、ちゃんと始末をつけられるようにと。
それに、わたしは年頃になって、すでに自然と「ほと弄り」も覚えていた。
だから「てほどき」には、すぐに「ここちよさ」を感じていたのだ。
すると、脇下の隙間から、むらおさの手が入り込む。
大きな掌と長い指で、乳をそっと掴まれた。
思わず息を飲む。
指先で、乳のさきっぽをはじかれる。
短い悲鳴が洩れそうになって、わたしはくちびるを噛みしめ、深く俯いた。
続けて、乳首の根元をくすぐられた。
もうすでに、頂が、固く尖っていることに気づく。気をやるときになるみたいに。
むらおさは、ひとびとの話に頷き、盃を傾けながら、わたしの胸の尖りをくすぐった。
乳つぶを軽く押しつぶしたり、膨らみをやわやわと揉みしだいたり。
ごく他愛ない、手すさびのように、それを続けていた。
周囲のものは、なにも気づいていないのだろうか。
股の間が、ほとが、つきんつきんと熱を帯びる。
たまらず、こっそりと内股を擦り合わせると、くちちと水音がした。
それは、賑やかな座のなかにもハッキリと響き渡って、わたしはいたたまれなさに、ますます赤面する。
旦那さまの手は止まらない。
固くしこった乳首を、コリコリ摘ままれて、わたしの息はみるみる荒くなる。
「あぁあぁぁ」と、気が高まる声も漏れた。
これではいけない、居ずまいを正さないと。
背中を伸ばして座り直したとたん、股ぐらから溢れ出た淫汁が、ぷちゅぷちゅと、みっともない大きな音をたてた。
目頭が熱くなる。
涙がこぼれそうだった。
その時、あの中年男の妻が、そっとわたしの肩をたたいた。
それを潮に、わたしはその場から下がる。
背後で、「いやぁ、『色ごのみ』なお嫁さまやなぁ」と。
誰かの朴訥とした声が、カラリと遠くに聞こえた。
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