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「乾杯! お前さんのおかげで投げ銭もたんまり入ったし、今日は俺が奢ってやろう」
「いえ、私も先ほど金貨を差し上げましたし、金銭には困っておりません」
お互いの演奏の腕を認め合って意気投合したつもりで酒場に連れ込んだのだが、どうもこいつはノリが悪い。
「まあ、いいから。俺の気持ちを汲んでくれよ。名前をまだ言っていなかったな、ブライアンだ、よろしく」
「私は慈音と申します」
「じよん? ジョン、お前さんはなんで吟遊詩人をやっているんだ?」
「じ、お、ん、です……。そうですね、生家が古物商でしたので、物心つく頃から色々な楽器に触れる機会がありました。そのうち、古代に作られた聖楽器という遺物に興味を持ち始めて、収集の旅に出かけるついでに演奏に興じようと思いました。あなたのエレギタラも譲っていただけませんか?」
「ふざけるな、これは一度命を救われた大切な代物だ。俺は元傭兵でな、各地の迷宮で魔物狩りをしていたんだが……多くの仲間を失ってしまった。戦友達の霊を音楽で弔うために吟遊詩人に転向したんだ」
「魔物……それはレプティアのことでしょうか」
「そうだ、旧世界を絶滅に追い込んだと伝わる魔獣」
「レプティアは退治できたのですか?」
「多くの犠牲を払ったが、奇跡的に討伐することができた。それよりも俺はお前さんの演奏に惚れ込んだ。俺とバンドを組まないか」
「……バンド?」
「ああ、バンドとは神話叙事詩に描かれているミューズ達が一団となって演奏する楽隊のことだ。俺は聖都のコロシアムで、伝承に伝わる『ライブ』というミューズの共演を再現することが夢なんだ。それにはお前さんの腕が必要だ」
「申し訳ないですけど、私には今やるべきことがあって、その申し出を受けることはできません」
彼は穏やかな表情から一転して、冷徹な視線を向けてきた。
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