吟遊詩人とヘヴィメタル

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 宿で支度を整えた俺達は街から離れ、獣道を辿りながら『静かの森』と呼ばれる鬱蒼とした樹海に足を踏み入れた。ランプを照らしながら進むが、視界は白い霧がかかり、はっきりとは見えない。帰り道に迷わないよう、ナイフで木々に(しるし)を刻みながら奥へと進んだ。 「とても静かな場所ですね、木々の葉が揺れる音すらしない」 「この深い樹海が無風状態を作り出しているんだろうな。レプティアは無音環境を好むから生息するには適した場所だ」  ジョンは楽器の棹を前に突き出しながら、探るように辺りを見回していた。 「ジョン、それで……どうやって居場所を探り当てるんだ?」 「レプティアの反応を検知すると、この邪味線が共振して方向を示すのです」 「方位磁石みたいなものか。しかし共振するということは相手にも気づかれるんじゃないのか?」 「いえ、これはレプティアの生体が発する念を感知するものなので、相手からは検知できません」 「よくこんな面倒な仕事を受けたな」 「聖楽器を譲り受ける条件でしたからね。それに希少なレプティアの皮革がほしい。この邪味線が良い音色を出すには、張りのある皮革が必要なので」 「愛する楽器のために危険も顧みずか……。やっぱり俺達似た者同士じゃないか?」 「吟遊詩人など皆、そんなものでしょう。好きなことだけのために稼いで、気ままに放浪する独り者……、あ、反応があります、こちらの方向に」  ジョンは進む方向を変えると、木々をかき分けながら傾斜面を登っていく。俺のその後につきながら、しばらく登ると半月がぼやりと見えるひらけた場所が窺えた。  その場所を確認しようと急いで足を運ぼうとしたが、ジョンに腕で前を遮られた。
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