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「シッ、何か……聴こえませんか?」
耳を澄ますと、静まり返る夜のとばりに、涼しい風が通り抜けるような全身を震わす優しい音色がこだましていた。
これは……歌声。
二人で身を屈めながら、おそるおそるその音色のほうを覗き込むと、大岩の上で両手を組み、祈るように歌う少女のシルエットが月明かりに照らされて浮かび上がっていた。
「素晴らしい……まさに女神の吟声だ。俺の求めていた歌姫がここにいた」
その歌声に誘われて、俺は思わず腰を上げて少女を見つめた。
「ブライアン!」
ジョンから声をかかるが、俺は気に留めることもなく、少女のほうへ足を進めた。
少女は俺の気配に気づくと、ゆっくりと顔を動かし、虚な視線を向けてきた。
「や、やあ、お嬢さん。素敵な声を持っているね。俺達の仲間にならないか、君と一緒に音楽を演奏したいんだ」
「立ち去りなさい……」少女が小さな声で呟いた。
「……ん?」
「ブライアン、彼女の体をよく見ろ!」
目線を彼女の顔から下に向けると、下半身が大岩に埋まっていた。そのぬるりと緑色に光る岩肌はかすかに揺らいでいた。
大岩だと思っていたものは大蛇……いや、これは見覚えのある魔物。
「君は人間? それとも……レプティア!」
「どちらでもない、私はこの魔物を封印する命を受けた生贄の偶像。レプティアが暴れる前に立ち去りなさい」
「生贄? 誰がそんなことを。心配するな、今助けてやる」
俺がジリジリと彼女に近づこうとすると、目覚めたレプティアはぐるぐるに巻いていたとぐろを展開し、その不気味な姿を露わにした。
蛇のように長い胴に張り付いた無数の目が俺を一斉に見つめ、百足のような脚がわさわさと蠢いていた。
緩んだ胴の隙間から、少女の体がドサリと地面に落ちる音がした。
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